エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 20    Episode...20 [激震と壊滅、そして激突]
更新日時:
2008.07.09 Wed.
ソートシティを地震が襲い、和西は凄まじい震動のなかで飛び起きた。
すでに殺気のような感覚に眼を覚まされていたイオ、ガニメデはベランダから街の様子を観察しており、林未は柳田をたたき起こしている。
「これ!!? !!まずい!」
和西はゴマモンを抱きかかえると扉を撥ね開けた。
「二ノ宮さん!!? そっちは大丈夫か!?」
和西が呼びかけると同時に二ノ宮が叫び返す。
「来ちゃだめ! 扉が開かないの!! 外に逃げて!」
「ファンビーモン進化!!」
大きな音が扉の向こうから聞こえた。
ファンビーモンが進化したワスプモンかキャノンビーモンか、それともタイガーヴェスパモンか。
いずれにせよ進化したファンビーモンが壁ごと打ち抜いて脱出したらしい。
和西は安心と心配を半分ずつ胸に抱え、急いでベランダまで駆け戻った。
「これは・・、危ない・・!!」
イオはそう呟き、腰に下げていたロイヤルナイツの証を掴み取った。
「プロトコルアルファモン、発動!」
イオがアルファモンに変化する。
アルファモンが同じ部屋にいた全員を抱えて脱出した瞬間、宿が崩れ去った。
「イオ! ブレイブナイツは!?」
「あいつらなら心配ない。もう脱出して住民の非難にまわっている」
ガニメデが呟いた。
その声を聞いて和西やゴマモン達はおろか、イオも驚いてガニメデを見つめる。
ガニメデは虚ろな眼で茫然と崩れ去っていく街を見下ろし、ただアルファモンの背に立ち尽くしていた。 
復興がかなったソートシティは砂煙を上げて再び瓦礫の山に戻りつつあった。
顔を上げると街のはずれに住民が固まっている。
団長が剣に朝日を反射させ、全員が非難したことを知らせる。
アルファモンはその場所に向かい、キャノンビーモンとヴァジラモンの間に着地した。
他の者と同じように、為す術なく“街”を見つめるヴァジラモンの隣に立ち、ガニメデが呟いた。
「・・どうしようもない」
ヴァジラモンはまったく動かない。
ガニメデは自分に体術を教えたかつての師を見つめ、視線をもとに戻した。
「オレの大事なものが崩れていく・・。帰ってくる場所だった。イオやカリストや騎士団に出会った思い出の場所が」
ガニメデは少しずつ小さくなっていく地震を感じながらその場に腰を下ろした。
「オレ達の主君はデジタルワールドを治めている。そうだな、イオ」
アルファモンは頷いた。
直接見なくてもガニメデにはその様子が目の前の出来事のように分かった。
「デジタルワールドを治めている、か。それでもこうなのか?何もしないのか?イグドラシルは」
ガニメデは続けた。
「前にイオとカリストを粛清するよう命令されたことがあっただろう。・・それでもどこかでオレはイグドラシルを信じていた」
「・・・私も。そうだった。ガニメデ、あなたももう信じてないの?」
エウロパが言った。
彼女の声がよく聞こえるほどに地震の音は小さくなり、その場の全員が沈黙していた。
「信じてなどいない」
そう呟いてうつむいたガニメデの頬を一筋、涙が伝った。
やがて周囲のデジモンたちがすすり泣く音が地震の音を上回り、しばらくそれらは続く。
何滴か地面に落ち、乾いた地面にすぐに吸い込まれ、見えなくなった。
 
 
「では、そろそろ出発しましょう」
広場に集まったデジモン達全員に聞こえるようウィザーモンが言った。
活気があるとは到底言えない掛け声をあげ、デジモン達がぞろぞろと彼に続く。
その中に混じって嶋川たちも移動を開始した。
それぞれ風通しの良い布地のマントをコートの上から羽織り、嶋川やアグモン、ガブモンは自分達の分の食料などを背負っている。
谷川は昨晩からしきりに仲間を見てはうつむくのを繰り返していたが、ついに口を開いた。
「ごめんねっ、その、あたしがロードナイトモン追っかけなかったらさ・・・」
「別にどうも思ってないよ」
ガブモンが即座にフォローする。
辻鷹も急いで頷いて見せた。
「そうだよ!なにも気にすることないって!」
この言葉を最後に嶋川たちは押し黙る。
 
やがて背後に見えていたはずの集落が地平線の下に消えた。
いまさらながらデジタルワールドに地平線があることを認識した辻鷹はそれを口に出してみた。
嶋川も谷川もアグモンもホークモンも話しに加わりはしたもののあまり反応を見せない。
ガブモンがなんとか話を持たせようとしたが効果は薄かった。
「・・・」
辻鷹はそこで会話を成立させる努力をやめてしまった。
あまり話をするような空気が漂っているとは言いがたい。
 
一日中歩き続け、集落が消えた地平線に太陽が沈む。
ついに2日目が終わった。
その場でキャンプを張ることになった一行は作業を分担して設営に入る。
炎撃刃を持つため火を焚くのを任された嶋川たちも作業を始める。
膝に木の枝を押し付けて割った嶋川はふと顔を上げた瞬間ガブモンと目が合った。
「・・。なんだよ」
「!? なんでもないなんでもない」
ガブモンは慌てて目をそらした。
その瞬間に今度は谷川が目をあわす。
「なんだかキャンプみたいだね!」
「・・そのものだろ」
「・・・そーだけどさ。なんでそう言うかなー。楽しくないの?」
嶋川から返事は無かった。 首も動かさない。
「ははぁ、楽しくないけどつまんなくもないんだな!?」
彼女自身は楽しそうにそう言う。
すると嶋川も笑みを浮かべて軽く頷いた。
辻鷹は驚いた。 話が成り立ってる。
なんとしても加わらなくてはいけない。
「枝、こんなもんでいいかな」
「ああ、いいんじゃないか?」
「よおし、点火しよー!!」
「おぉ」
「? メシか?」
「・・・あのさ」
 
辻鷹はさっきまでとは違い楽しく雑談をしながら目の前の炎を眺めた。
炎撃刃の炎が強すぎて火をつけるのに苦労した。
やっと枯れ草に引火させて小枝、枝へと火を移す。
小さな火種に風を送って今、大きな焚き火ができた。
さっきの会話のはじまりかたに似ている、
辻鷹はそう思っていた。
嶋川がふと目をあげたことが火種だとすれば谷川はそれに風を送って大きな会話に焚き上げたとも言え谷川の『風』の銘を持つテイマーとしての一面を垣間見た気がした。
 
熱い湯を持ってきたヤシャモンとケンタルモンが湯をカップに分けながら言った。
「かなり予定通りです。明日にはソートシティのはずれあたりまで行く事ができますよ」
「本当ですか!?楽しみ!」
「やっと合流できる見込みが出てきたか」
嶋川は満足そうな顔で熱い湯を飲み干す。
ガブモンが喉を鳴らして湯を飲むのを辻鷹が羨ましそうに見つめていた。
猫舌の辻鷹はカップを渡されても口を付けられない。
 
 
デジモンたちがそれぞれ見張りに立つ者と寝るものに分かれ始めた頃、嶋川は自分が背負ってきたバッグから寝袋をいくつか取り出した。
簡素な布でできたそれは人間が入って寝るにはかなり大きめですぐに出られるように一箇所だけが止めてあり、綿が入っているらしくやわらかい。
不便のない寝床だった。
嶋川たちはとりあえずそれにもぐりこむ。
それでも武器は身につけたままだ。
嶋川は右上を見る。
疲れていたらしい辻鷹はかすかに寝息を立てていた。
見えないがガブモンが動く気配もない。
反対側を見た瞬間谷川が手のひらで作ったピストルで撃つ仕草をして見せた。
本能に従い嶋川は反対を向いて目を瞑る。
「つきあってる場合じゃないな・・。早く寝よう」
と、同時に足元からアグモンが呻く声が聞こえ、何かが寝袋になかを這い進んできた。
「何か用か?」
目と鼻の先の谷川に向かって嶋川が呟く。
「何か用か?ってさ。もうすこしリアクションあってもいーじゃん」
「疲れた」
その瞬間谷川がかけ布を跳ね上げて飛び起きた。
「疲れたじゃないよまったく!」
嶋川は目の前の髪の毛を掴んで谷川を引き倒した。
視線のすみに谷川の寝袋に上半身だけつっこんだアグモンが一瞬映る。
「分かったから静かにしろ。寝ておけよ。明日も早いんだ」
「いっしょに寝ていい?」
「好きにしろ」
「じゃ、お邪魔します」
並んで横になった谷川は嶋川にならって正面の夜空を見上げた。
「あのさ、あたし達が戦い始めてもうだいぶ経つけど・・・」
谷川は一旦そこで言葉を切った。
嶋川は横目で様子を伺い、続きを促す。
「だいぶ経つけど・・、なんだ?」
「うん、よくやってこれたよね。あたし達」
「まあいろいろあったけどな」
そう呟き、嶋川は両腕を組んでその上に頭を乗せた。
「和西に会って積山に会って、その後・・・、誰だったかな」
「僕だよ」
うつぶせで顔だけを向けて辻鷹が言った。
「ちゃんと覚えてやってる」
嶋川は反り返って辻鷹と目を合わせる。
彼は辻鷹から視線を谷川に移す。
「その後 ――」
 
口を開いた嶋川の目の前で再び谷川が、今度は立ち上がった。
「お前いいかげんにしろよ」
「黙って!」
いつもと違い強い口調で言い放った谷川は両耳を軽く押さえ首をせわしなく動かした。
「何か来る!!」
嶋川をはじめ、周囲にいた辻鷹やデジモンたちもゆっくりと身を起こした。
「何か・・ってなんだ?」
「分からない・・・。でも・・。!!?“殺す”!?」
谷川は辻鷹を見つめた。
すでに“眼”を発動していた辻鷹は首を横に振る。
「まだ見えない・・!! みんな早く!」
「戦闘態勢!」
「だめ!!逃げて!」
ウィザーモンの指示を谷川が打ち消す。
その瞬間せきを切ったようにデジモンたちが林に向かって走り出した。
後を追おうとした嶋川は逆方向に走る谷川に気づき、アグモンや辻鷹、ガブモン、ホークモンを呼び止め駆け出した。
すぐに追いつき腕を掴んで引き寄せる。
と同時に谷川はその腕を振り払った。
「離して!!これはあたしの戦いなんだから!!」
「どういうことだ!説明しろ!!」
「相手はあたしの家族を殺した奴だ!“風の子を殺す”“2代の修験者をこの私が”って!!  ホークモン!」
コートからプログラムカードを取り出した谷川はデジヴァイスにそれを叩き込んだ。
「ホークモン進化!!!!」
ヴァルキリモンに進化しようとする谷川に嶋川が叫ぶ。
「おい待て!」
谷川の腕を握っていた嶋川は鋭い痛みに顔をしかめる。
谷川とホークモンを包み込み始めた風が嶋川の腕を叩いていた。
風に包まれた谷川はなにか思い出したように振り返り、微笑んで見せる。
 
「とりあえず言っとくよ。あたしは・・・好き」
 
その瞬間風と風との間に生まれた真空が嶋川の腕をコートごと傷つけた。
一瞬気を緩めた瞬間に嶋川は谷川の腕を取り逃がし、一気に風にあおられた。
 
「   ヴァルキリモン   」
 
辻鷹に支えられ、再び駆け寄った嶋川の目の前でヴァルキリモンが翼を広げ、飛翔する。
 
嶋川は薄く血のにじむ自分の右腕を見つめる。
そして空を見上げた。
「くそう!!」
ヴァルキリモンを見据え、嶋川もコートからプログラムカードを出し、デジヴァイスに読み込ませる。
「アグモン進化!!!!」
辻鷹もほぼ同時にプログラムカードを読み込ませていた。
「ガブモン進化!!!!」
 
「    ウォーグレイモン     」
 
「    メタルガルルモン     」
 
「行くぞ!」
「オーケー!」
ブースト全開で2体はヴァルキリモンを追う。
 
 
夜空を疾走するヴァルキリモンは数分前からずっと聞き続けていた翼の音を正面に捉えていた。
「ホークモン・・・、お願い。力を貸して」
「いつでもどうぞ!」
かすかに見える黒と白の翼を持つデジモンを睨みつけ、ヴァルキリモンは右手の盾のロッドを引いた。
そして腰の剣を抜く。
 
ルーチェモンは高笑いをしながらヴァルキリモンに正面から襲いかかる。
「また会ったな!『風の修験者』!!」
両腕に高エネルギーの球体を出現させ、ヴァルキリモンを睨む。
 
 
「お前だけは絶対に許さない・・・!!!!」
「消えろ!!」
 
超高度の空中でヴァルキリモンとルーチェモンの攻撃が激突した。
 


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