エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 21    Episode...21 [漆黒と純白の決意]
更新日時:
2008.07.20 Sun.
3度目の食料調達を終え、暗がりの中をカリストと黒畑、ロップモンが進んでいく。
「案外ないんですね、食べられるものって」
「それがさ、ここはエビルフォレスト、“2度と戻れぬ悪魔の森”にやたらと食べ物があるわけない」
そう言いながらカリストは相変わらず周囲を見回し、危険がないかを確かめた。
わずかばかりの食料しか手に入らない。
もっともカリストの知識と経験が無ければどうなっていたか、黒畑には想像がつかなかった。
食べられるものかどうかの区別はもとより帰り道までカリストに頼りきり、最初から黒畑は何かカリストの気をひきそうな話題を模索してきた。
『食べ物が案外ない』、という話題もその一環だったが、彼女はとうとう最後の切り札的話題を切り出す。
「イオ達とはどういう関係なんですか?」
あきらかにカリストはなにか反応を示す。
「は?」
立ち止まった上で訊いているのだが、カリストの頬が一瞬ほのかに赤くなったのをロップモンは見逃さなかった。
気まずくなるのをなにより避けようと黒畑が慌てて付け加える。
「あ、あくまでイオ“達”です!」
カリストは鼻をならすと先立って歩き始めた。
慌てて後に続く黒畑を肩越しに一瞬見て、カリストは口を開く。
「ただ仲間だよ。ロイヤルナイツは仲間だと思ってない。けどイオもガニメデもエウロパもあたしの命より大事な仲間だ」
「・・命よりって」
思わず口を滑らせた黒畑にカリストが振り向く。
「命より大事だぞ?実際イオはイグドラシルに何度か逆らってたからな。身代わりになって何度か死にかけた」
「・・・」
「・・・」
黙って顔を見合わせ、自分を見つめる黒畑とロップモンの様子にカリストは大きくため息をついた。
「分かったよ。・・・ったく、あたしはな、イオが殺せと言えば殺すし、見逃せと言えば見逃してやるよ。死ねって言われても文句無いね」
追いついて隣を歩く黒畑はカリストの目を覗きこんだ。
「本当ですか?」
「本当だよ。イオがいなきゃあたしは今こうして歩いてない。だから・・、――ちょっと待て!なんだ!?」
「ベルフェモン・・・?」
話を中断して聞き耳を立てるカリスト。 ロップモンが推測を呟く。
「急ぐぞ!積山が危ない!」
 
 
岩場の中で様子を見守っていた積山の目が動くものの気配に反応し、開いた。
目の前の森の中に4つの紅い眼が光る。
「・・・起きたか」
森がまるで悲鳴をあげているような音をたて、木々が次々と薙ぎ倒される。
ベルフェモンの巨体が一日の間を経て立ち上がった。
「行きますよ。ギル、裁」
「分かった。やるか」
擬態を解いた裁に声をかけ、ギルが先陣をきってベルフェモンに襲い掛かる。
究極体進化のプログラムカードをコートから取り出し、デジヴァイスに装填する。
積山はまず、ギルの背中を見つめながら静かに言った。
「ブラックギルモン、進化」
 
 
「     カオスデュークモン    」
 
 
漆黒のマントを羽織る暗黒騎士へと進化を遂げたギルが一気に右腕の槍を携え突進する。
背に黒い翼はない。
 
再度カードを装填し、積山はウィルドエンジェモンを見つめ、言った。
 
「ウィルドエンジェモン、進化―――“ハニエル”」
 
“ウィルドエンジェモン=ハニエル”
裁が単体で到達した究極体の姿にして『権天使』。
夜の暗闇をはねつける輝きを放つ。
 
そのまばゆい光に眼を焼かれ、ベルフェモンが隙を見せる。
飛び上がったカオスデュークモンがベルフェモンを斬りつけた。
「この前の我々とは違う。積山の具合がよくない。・・・もっともお前は我らだけで十分だがな」
刺すような口調で言い、カオスデュークモンはベルフェモンの攻撃を半ば嘲るように避ける。
“ハニエル”は花のような形状の座の上に穏やかに座っており、そこに積山もいた。
カオスデュークモンは“ハニエル”の座に着地した。
肩の鎧にわずかにかすった程度の傷を見止め、“ハニエル”は背の翼を広げた。
それに気づいたカオスデュークモンはその翼を手で払った。
「この程度まで気にする事はない」
“ハニエル”は首を横に振り、翼で鎧を撫でた。
一瞬で回復した鎧をさわり、カオスデュークモンは気まずそうに苦笑する。
「いいと言っているのにな」
ハニエルは微笑むと言葉を話した。
「いいのです。私にできることがあるなら喜んでそれをする。それが私の望むことなら」
蘇生後のデジタマ化の代償として声を失っていた彼女の声を聞き、積山は頷く。
「ベルフェモンを倒してみんなのところへ」
 
積山たちはこのエビルフォレストで何体かのデジモンと出会っていた。
ほとんどは突然現れたベルフェモンと積山たちに害がないかを確認しに来たデジモンたちだった。
ベルフェモンが噂になっていた究極体ばかりを狙うデジモンと知り、デジモンたちは驚きを隠せないようすだった。
さらに恐怖も。
究極体を狙うというのなら和西たちやイオたちにも危険が及ぶ可能性が高い。
 
それ以前に積山は何故かこのベルフェモンを倒そうと心に決めていた。
 
 
森の中から星の光を遮る木々の枝の隙間から“ハニエル”に気づき、カリストは足を止めた。
「なんだあれは・・・!? 裁か?」
「分からない・・、ロップモン!」
「ロップモン進化!!!!」
「なんでもいい!“プロトコルデュークモン”発動!!」
 
「     ミネルヴァモン    」
 
急上昇し、デュークモンは横目でハニエルの台座の上の積山を確認する。
一瞬目が合ったとき、積山は手でカリストに待つよう合図した。
「なんだ!?一斉に攻撃を加えればすむことだろう!」
「その必要はありません。私達で十分です」
目前のベルフェモンは全部で4体に増えた究極体に闘争本能をむき出しにした。
と、その直後。
急に首を背後にまわし、ベルフェモンの背の巨大な翼が広げられ、その巨体が宙に上がる。
想定外の出来事にカオスデュークモンの反応が遅れる。
同時に積山は脇の“ハニエル”本体に言った。
「追ってください」
「しっかりと私の手を握っていてください。カオスデュークモン!行きましょう」
何の前触れもなく巨大な座が動き出す。
ベルフェモンを超える勢いのスピードで追跡を始めた。
デュークモンはすぐにミネルヴァモンを拾ってハニエルを追う。
追いつき、着地するとミネルヴァモンは積山の背後に飛び降りた。
「積山さん、これって一体・・・」
「“ウィルドエンジェモン=ハニエル”と“カオスデュークモン”の2体。私達の新しい戦闘スタイルです」
デュークモンは親しげに微笑みかけるハニエルを横目に今度はベルフェモンを見据えた。
「それより、あれはどうする?」
積山はその場に腰を下ろし、いつものように腕を組んで言った。
「ベルフェモンはカオスデュークモンとハニエル、デュークモン、ミネルヴァモンを目の前にして別のデジモンに反応して移動をはじめた・・・、とすれば?」
ミネルヴァモンとデュークモンは驚き、互いに顔を見合わせた。
ハニエルが結論を代弁する。
「少なくとも4体以上の究極体の存在を感じてベルフェモンは飛んでいるのでしょうね」
「じゃあそれなら!」
「イオがいるかもしれない・・?」
「可能性あります」
「よしっ!」
プロトコルを停止させ、カリストも座のふちに腰掛ける。
時折風に飛ばされてくるハニエルの羽毛を捕まえては手をはなす、ということを繰り返し始めた。
一方、ロップモンはハニエルの金髪の上に乗って楽しそうに話をしていた。
「すごいね!一人で究極体に進化できるの?」
「ええ、この姿は慎との信頼の証です。私にできることは慎といっしょに存在すること。あとすこし・・最期まで」
「え・・?」
積山のすこし後ろでロップモンとハニエルの会話を聞いていた黒畑は思わず声を漏らした。
カオスデュークモンとハニエルがすこしの間振り向いて、すぐに視線をもとに戻す。
積山は身動き一つせずベルフェモンを見つめる。
何を言うか考える事すらできないまま黒畑が積山に話しかけようとした瞬間だった。
積山が立ち上がり、黒畑とロップモン、カリストに指示する。
「そろそろ、降りる準備をしてください」
大地が迫るなか、眼下のベルフェモンが地上すれすれを飛行し、砂煙があがる。
「私たちで十分です」
振り向き、積山は言った。
ここに来て汚れ一つないカッターシャツがはためき、右腕やわき腹の黒いアザが見え隠れした。
「積山!?」
「積山さん!・・・それ・・、どうしたんですか!?」
黒畑が詰め寄る。
抵抗のない積山の右腕を捕まえて袖をたくし上げた。
腕を紋様のように模様が覆っていた。
紋様の周りはもう地肌の色も見えない。
炭のように黒く、闇そのものの暗さで塗りつぶされた肌に水滴が何滴か落ちた。
「なんで・・・、なんで言ってくれないんですか・・・?」
「“当然の代償”だったから・・です」
「バカにしないでください!!  なんのために仲間なんですか・・!?」
黒畑の最後の言葉に積山の表情がこれ以上ないほどの苦しげにゆがむ。
「仲間だからですよ。どうしても言うわけにはいかない・・」
「『蘇生』ですか?! 『蘇生』を使ったからですか!?」
「だから言うわけにはいかないんです!! ・・きっと・・、浩司や計は・・!」
いつになく荒々しい口調で積山と黒畑は話し続けた。
「自分がどれだけ必要とされているか分かってるんですか!? 積山さんの考えてるとおりです! 嶋川さんも計ちゃんも積山さんのことを!!」
「思ってくれるからこそ、なんですよ」
大声でまくしたて、言葉を途切らせた黒畑は積山のこの言葉に二の句が継げなかった。
「・・人間が人間の命を左右することはよくあります。でも命を蘇らせるなんて・・・やってはいけないことだったんです」
黒畑は頭のなかで何か言うべきことはないか必死に考えていた。
しかし思いつく寸前で考えが現れては消え、もどかしいほどに頭は働こうとはしなかった。
「降りてください」
ベルフェモンはすでに着陸し、ハニエルを見上げ吼える。
黒畑、ロップモンはミネルヴァモンに進化し、カリストはプロトコルを発動させデュークモンに姿を変えていた。
放っておいたらミネルヴァモンはそのまま立ち尽くしていると判断したデュークモンはミネルヴァモンの腕を掴む。
「約束だ。かならず降りて来い」
「おやすい御用です」
そう答えた積山を見上げ、ミネルヴァモンはついになにも言う事ができなかった。
激突寸前でデュークモンに受け止められ、ミネルヴァモンはそのまま崩れ落ちるようにその場に座り込む。
「[カーパスカル・レイズ]」
ハニエルの座を囲む巨大な飾りから光がさした。
 
“天使の梯子”と呼ばれる現象がある。
主に明け方や夕方に見られることが多い現象で、雲の隙間から漏れる光がまるで天使が伝う梯子のように見える現象のことだ。
 
聖なる光が次々とベルフェモンに降りかかり、動きを完全に封じる。
同時に瞬速で追撃に出たカオスデュークモンがすべての翼を切り落とした。
 
 
超絶的な強さを見せつけ、ベルフェモンを圧倒する積山たちを見つめ、黒畑はようやく立ち上がった。
「・・・だめ・・、だめ・・・」
ハニエルとカオスデュークモンは一旦進化を解き、あらためてカオスデュークモンの姿に進化する。
漆黒の翼は闇夜の中でも際立って黒く、浮き上がって見えた。
武器を持たない状態だったカオスデュークモンは右腕を持ち上げ、見つめた。
「この腕は私の朽ちてしまった手だけじゃない」
ベルフェモンを見つめ、カオスデュークモンはその右腕を掲げた。
バルムンクを2つ組み合わせたような形状の槍が闇から生まれる。
「この手で倒した。蘇らせた。そして・・・」
ゆっくりと舞い降りながら槍を掲げ、カオスデュークモンは呟く。
 
「もう考えないよ。 私は間違っていた。 でも、―――良かった」
 
 
「[レゾリューション]」
 
 
カオスデュークモンの闇の力を一点に凝縮した一閃はベルフェモンの体を簡単に刺し貫いた。
生気を抜かれ、まるでガラスの像のようになったベルフェモンは次の瞬間、粉々に砕け散る。
『決意』の一撃を受け、砕け散ったベルフェモンは月夜を乱反射して宙をいつまでも舞い続けた。
 
 
 
 
「行くのか?」
「ええ、もう・・、一緒にいることに・・・・、耐えられない・・・」
積山は裁に支えられてなんとか立ち上がり、背後を見下ろした。
光が溢れる盆地を黒畑とロップモン、カリストが動き回っているのが見える。
ギルはその様子から目を背けることなく、問いかけた。
「これからどうする」
積山は答えなかった。
しかし、すこし安らかな表情でギルと裁を交互に見た。
「もうすこしついて来てくれますか・・?」
二人が強く頷いたのは言うまでもなかった。
 
 
積山たちがその場をあとにし、黒畑たちが姿を消してもなお、ベルフェモンを形成していたデータは舞い続けていた。
その中に一人の男と一体のデジモンが横たわっていた。
積山雄介はパートナーであるファスコモンを見て、言った。
「顔合わせるのは久しぶりだな。ファスコモン」
「やっとお前との圧着状態から開放されたってワケか。やれやれ」
「口の悪さ変わんねぇな・・」
ファスコモンは鼻を鳴らす。
積山雄介は呟いた。
「このオレが七大魔王に仕立て上げられるとはな・・・」
「ヘマしやがって。何体倒しちまったと思ってる?」
「分かんねぇな。そんなことは」
積山は長く息を吐いた。
「見たか?オレ達十人の紋様は確かに受け継がれてる。オレの・・・」
一代目の『闇の守護帝』は消えていく自分の体を見つめながら呟いた。
「オレの息子、か。あいつは。本当に強い奴ってのは・・・、あんなのを言うんだろうかな」
「和西のやつがそんなこと言ってたな。そういえば―――」
「ああ、もう・・、よく覚えてねぇ・・・お前はどうだ? ファスコモン」
ファスコモンの返事はなかった。
積山雄介はすこしだけ笑顔になり言った。
「やっと終わったか」
 
2筋の粒子が、舞い降り始めたベルフェモンの粒子と入れ違いに空に上がり、月明かりに吸い込まれていった。
 


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