エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 23    Episode...23 [潰えた合流]
更新日時:
2008.07.26 Sat.
ポート荒原に戻り、分裂した仲間を待つことにした和西達はソートシティの住民達に見送られた。
「気をつけてください。高原は地盤が弱くなっていつ崩れるか分かりませんから」
「そちらこそ街の再建をがんばってください」
ヴァジラモンは団長に向き直って笑顔を見せた。
「もちろんですよ。何度でも立ち上がって見せます」
ヴァジラモンは何か言いかけ、ガニメデを探す。
ブレイブナイツに紛れて適当な方向に視線を泳がせている。
「ガニメデ! ちょっと来い」
ガニメデは足元の瓦礫を蹴り飛ばすと渋々ヴァジラモンの前に出た。
ぶっきらぼうに振舞うガニメデを見下ろし、ヴァジラモンはニヤリと笑う。
「アルファモンもデュークモンもドゥフトモンもマントを身につけているというのにクレニアムモンだけ何故身につけていないんだ?」
「・・・鬱陶しいんだよ。手に入れるのもめんどくせぇ」
「そんなことだろうと思ったよ」
ヴァジラモンはため息をつく。
「仮にも我らがソートシティの出身者がロイヤルナイツに所属しているんだぞ。騎士なら騎士らしく身なりくらい整えろ」
そう言うとヴァジラモンは後ろに控えていたスワンモンから包みを受け取った。
「帰ってきたらこれを渡そうと思っていたんだがな」
ガニメデに包みを渡す。
ヴァジラモンは再度ニヤリとした笑顔を見せた。
「避難するときにな。とっさにそれしか持って来れなかったんだ。おかげで秘蔵の干草も土の下だ。ったくよ」
肩を叩かれ、振り向いたガニメデはイオに促されて包みを開いた。
金糸で縁取られた相当に上質の布が現れた。
ガニメデの髪と同じく蒼い。
「付けてみたら?」
下から彩華が言う。
ガニメデは目をそらし、額のプロトコルに手を当てた。
「・・・プロトコルクレニアムモン、発動」
ガニメデが光に包まれ、クレニアムモンに姿を変える。
マントの上部を首を覆う鎧の上に回し、金具に挟む。
同時に住民達から歓喜のどよめきが生まれた。
「似合うぞ」
イオもカリスト達意外には普段あまり見せない笑顔でクレニアムモンの腕を叩く。
マントを身につけたままプロトコルを停止したガニメデはヴァジラモンをちらりと見た。
そしてきまりが悪そうに呟く。
「ありがとな」
「なんだ、やけに素直だな」
イオがそう言った瞬間ガニメデはその場の全員から目をそらしてしまった。
 
大勢のデジモンに見送られ、それが荒野のごつごつした岩に隠れ始めたころ、二ノ宮は団長に訊いた。
「これからどうするんです?」
「そうだな」
団長は頷き、立ち止まった。
左側、東を指差す。
「あの森を越えてその先に山脈がある。―‐そのさらに先、そこにイグドラシルがいる」
突然イグドラシルのことを教えられ、イオたちはともかく和西たちが驚いた。
話の内容を飲み下してから、和西は頷いて笑顔を見せた。
「じゃあ・・、じゃあ、黒畑さんたちや嶋川たちと合流したら」
和西は一区切り置いてその場の全員の顔を見回し、続ける。
「みんなと合流したら、 イグドラシルを倒そう」
あまり感情を表に出さないエウロパはともかく、イオやガニメデは怪訝そうな顔をする。
「お前達は何でここに来たんだ? 最初からイグドラシルを倒したくて来たわけじゃないだろう?」
「それもあるんだけどね」
二ノ宮が腰の後ろで手を組んで微笑んだ。
和西も二ノ宮を見て、笑い返す。
そしてイオや団長を交互に見て言った。
「勘違いしないでほしい。僕たちは『僕たちが戦う理由』をなくすためにここに来たんだ」
「戦いたいなんて少なくともぼくたちの誰も思ってないもんね」
 
 
僕たちは本格的に動き始めた。
少なくとも僕は今日初めて、それを実感した。
 
 
必ず勝って医者になることを目指す積山彩華、それを支えるクダモン。
 
母親や姉がどうして戦っていたのかを探し続ける林未、ともに探すコテモン。
 
帰ってかつての家庭を取り戻すそうと誓う二ノ宮とファンビーモン。
 
戦いに巻き込まれた人が笑顔を取り戻せるまで戦う柳田とコクワモン。
 
 
仲間を順に見つめ、和西はその誰一人欠けてほしくない、と願った。
 
 
 
辻鷹もガブモンも、アグモンでさえ嶋川の声をもうかなりの時間聞いていなかった。
谷川とホークモンを失ったことが相当なダメージを与えている、と辻鷹は考えていた。
自分でさえ背中を丸ごと切り取られたような喪失感を覚えるのだ。
だから、嶋川は全身の感覚が無くなってしまったんじゃないか、とまで思う。
辻鷹は思い切って声をかけてみた。
「なぁ! その・・、だいじょうぶか・・・?」
嶋川は振り向いて、視線をまた前に戻した。
・・無視された。
辻鷹はむっとして口を開く。
「いい加減にしてくれよ!!」
その瞬間嶋川が勢いよく振り向く。
「・・・あ・・!?」
嶋川の睨みにもひるまず、辻鷹は嶋川を正面から見つめ続ける。
その様子を見てガブモンは、成長したな、と他人事のようではあるが思った。
「いい加減にしろだと? 仁、お前なに言ってやがる・・?!」
嶋川はそう言った直後炎撃刃を地面にたたきつけた。
「おれがもっと強ければ・・・!おれが・・! っそう!! ・・・くそう・・・」
それきりうつむいてしまった彼に辻鷹は怒鳴った。
「それをいい加減にしろって言ってるんだ!! 泣くなりしろよ!! 自分の中に抱え込むなよ・・」
言葉の端々が途切れ、辻鷹の頬を涙が一筋、伝った。
「辛いの・・・君だけじゃないんだ。 そうだろう?」
辻鷹はその場に腰を落とし、入れ違いに嶋川は炎撃刃を拾い上げた。
辻鷹たちに背を向け、その背に炎撃刃を背負う。
「アグモン、 どうすれば強くなれるんだろうな」
アグモンは無言で嶋川を見詰める。
「もう二度とこんなことにはさせない」
辻鷹は立ち上がり、頷いた。
再び嶋川は歩き出す。
もうしばらくは話を切り出しても会話になりそうには、なかった。
 
 
 
リアルワールド。
早朝のさわやかな朝日が清潔な白い壁に反射し、輝く。
そのさわやかな朝の空気に反して、徹夜あけの若い医師は30分後の休憩を心待ちに最後のカルテをファイリングし、棚に戻した。
と、未処理のカルテの棚に一際、目を引くものがあった。
名前として書かれた文字は嶋川浩司。
 
かつて自分がまだER(救急救命室)の新人だったころ、彼は運ばれてきた。
当直だった彼は一目見て一瞬、うなだれた。
かなり大きなナイフで胴体を何度も刺されている。
父親からテイマーの話は聞いていたが、ついにその一人が命を落とした、そう思った。
それでも余計な事を考えているひまなどなかった。
「緊急オペ!」
 
そう叫んで手術室で全力を尽くした。
しかし彼は死んでしまった。
確かに死亡を確認したし死亡届まで作成した。
(余談だがその死亡診断書は後に本人が見て苦笑していた)
 
そう、それなのに嶋川浩司は生き返った。
“本人に聞いた話”、嶋川は火葬場で焼かれ終わったとき、生き返ったらしい。
傷口もすべて消え、そもそも体を火葬されたあとだったから体がある時点でおかしい話だ。
 
まぁ、なんにせよ今でもあいつは戦っている。
それで十分だった。
もうすぐ休憩時間だ。
 
そう思った瞬間だった。
静寂を極めていたERの室内にけたたましいように聞こえる内線のベルが鳴り響いた。
「はいER! どうかしましたか!?」
『十代女性、意識不明の患者が救急車で搬送されてきます!処置願います!』
「分かりました!」
やれやれ、休憩はお預けだな。
彼は気を引締め、看護士や他の医師を手配すると患者を待ち構えた。
 
 
「身につけていたコートから名前分かりました!!谷川計さん、テイマーです!!」
「なに!?」
すぐにストレッチャーに乗せられ、谷川が術室に入る。
傷などは見受けられない。
脈はある。
心臓はしっかりと動いていた。
ただし呼吸していなかった。
「まずい・・!脳死する!!」
その瞬間新藤医師の脳裏に一つの考えがよぎった。
“組織”の幹部・・、確か式河という男だった・・、彼は脳死だった。まさか・・・!
「この患者はデジタルワールドからこの世界に戻ってきた可能性がある」
「え?」
「グズグズするな!人工呼吸!」
「は、はい!!」
呼吸器を使い、人工呼吸を始めながら彼は呟いた。
「何があった・・? デジタルワールドで!」
「呼吸戻りません!!・・このままでは・・、脳死します・・・」
「させるかよ・・!」
人工呼吸器を手配させ、新藤医師は呟く。
「嶋川が待ってんだろ・・!? お前、今死んでる場合かよ・・!」
谷川の頬を涙が一筋、伝った。
「先生! 意識あります!」
「よし、呼吸器を取り付けるぞ!」
必死の治療が続けられた。
 
 


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