エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 24    Episode...24 [忠義の狭間]
更新日時:
2008.07.31 Thu.
昼の暖かい日差しが降り注ぐ。
町には細い水路が張り巡らされ、中心部には神社のような建物が見える。
サスペンドタウンと呼ばれる小さく、閑静な町の中ほどにある一軒の建物があった。
瓦ぶきの和風にも見える建物だ。
布を柱の間に張った簡単なハンモックに揺られ、積山はゆっくりと目を開ける。
ハンモックを見下ろす背の高い椅子に腰掛けていた裁がはっとして椅子を飛び降りた。
壁を叩くとその音に反応してギルや、この家の持ち主らしいガルゴモンが姿を現す。
「目が覚めたか!?」
ハンモックに身を任せた状態で積山は3体のデジモンを見つめる。
「・・心配、かけたみたいですね」
「なに言ってんだよ。ったく」
照れくさいのか、ギルは視線をそらした。
「まぁ、元気でなによりだよ。水でも飲んで」
ガルゴモンが金属製らしいカップに入った水を差し出す。
裁は精一杯気持ちをこめて会釈をし、カップを積山の口まで運ぶ。
喉がいっきに潤い、積山は一息つくとハンモックを降りた。
 
ガトリング砲と同化した両腕を器用に振るい、ガルゴモンが軽食を用意してくれた。
厚く礼を言い、積山たちはそれをご馳走になる。
積山が目をさましたという情報は小さな町の隅々までいきわたり、隅々から話を聞こうとデジモンたちが集まってきた。
食事の間も話は尽きなかった。
「このところ災害が多いですよね。この辺はまだ何もないんですが・・・。もしもと思うとやっぱり心配です」
「原因は分からないんですか?」
積山の問にガルゴモンの隣に座っていたトゥルイエモンが答える。
「町長さんはイグドラシルのせいだと・・・」
「ロイヤルナイツの親玉か・・」
ギルの目がつりあがる。
なにか荒っぽい事を考えている証拠だ。
住民達のほとんどがうなだれ、頷くものも見える。
 
不意に大きな音が外から聞こえ、積山のカップの中身が踊る。
「待ってください! 理由を説明してください! 彼らはサスペンドタウンの大事な客人ですよ!?」
その声を聞いて室内のデジモンたちが驚く。
「町長さん・・・?」
立ち上がったガルゴモンは他の住民達を掻き分けて扉を開けた。
ガルゴモン自慢の玄関が半壊し、その中にクズハモンが倒れていた。
「ガルゴモン・・? 逃げてください! 積山さん達を連れて!」
その直後ガルゴモンの視界の上から一体の騎士が舞い降りた。
「セキヤマ・シンがいるのはここか?」
黄金の鎧を身にまとい、青い素肌が目立つ。
マグナモンはほとんど動かないクズハモンを無視し、ガルゴモンの前まで来た。
「どいてくれるかな」
「いやだね。ここはぼくの家だ!」
マグナモンは一瞬目を細め、開いた。
「邪魔者は消してよし、と言われているのでね」
 
外の様子を聞いていた積山は心配そうに振り返る裁の髪を撫でた。
「一宿一飯の恩を返しましょう」
裁は擬態を解き、頷いた。
 
ガルゴモンが消滅させられる寸前、住民たちの頭上を飛び越え、マグナモンの胸をウィルドエンジェモンが蹴る。
「なっ!?」
細身の剣で装甲の隙間を狙う彼女から距離を置き、マグナモンはとっさに飛びのいた。
マグナモンがいた場所を高熱の炎が直撃し、クレーターを生む。
 
ガルゴモンの家の裏からブラックグラウモンに進化したギルが姿を現した。
「ッチ・・。おしいな」
ガルゴモンの家の向かいの家の屋根に着地し、マグナモンはややあって立ち上がり、ギルとウィルドエンジェモンを見下ろす。
「おしい?笑わせるね」
次の瞬間にはウィルドエンジェモンの真上に間合いをつめる。
彼女の目にはマグナモンの鎧の裏側に何基もブースターを確認することができた。
「驚いたよ。それだけだけどね」
目の前にマグナモンが現れるまでさっきの屋根の上から喋っていると錯覚するほどのスピードだ。
マグナモンの両腕に鮮やかな閃光が走り、エネルギーを凝縮したグローブがウィルドエンジェモンに襲い掛かる。
「[プラズマシュート]!!」
その瞬間闇がマグナモンとウィルドエンジェモンの間に割って入り、巨大な鎌が立ちはだかる。
大きな革ベルトを地面に叩きつけたような音が周囲のデジモンたちの鼓膜を打ち震わせた。
相殺された自分の攻撃が十分なチャージなしのものだとはいえ、マグナモンは驚く。
「彼女には触れさせませんよ」
右腕の紋様から“闇”をあふれさせ、積山はウィルドエンジェモンの隣に立つ。
マグナモンの目が微笑む。
「君がセキヤマ・シンだね?」
ブースターを活かし、距離を離すと同時に両腕に鎧からエネルギーを集め、両腕に集中させる。
「君、邪魔らしいんだ。消えてよ」
前かがみになり、突進姿勢をとったマグナモンは絶対に誰にも聞こえないよう、呟いた。
「悪く思うなよ」
マグナモンが襲い掛かる。
両腕に集中したエネルギーが球状になった。 前の攻撃の時よりも大きい。
「[プラズマシュート]!!!!」
高エネルギーの一撃が炸裂し、砂煙が柱を作った。
 
両腕にデータ破壊の感覚を感じたマグナモンは砂煙から煤煙へと移行を始めた煙の柱に興味を失い、不覚にも背を向けてしまった。
煙を割り、左右に吹き飛ばしたカオスデュークモンが右腕の魔槍を振り上げる。
「 甘いな。ロイヤルナイツ 」
「 ・・!? バカな・・!! 」
眼を見開くマグナモンの目前で積山が優雅ともとれる動きで進化プログラムカードを挿入する。
「 ウィルドエンジェモン進化 ―――“ハニエル” 」
膨大なデータがデジヴァイスから放出され、台座の部分を形作る。その上の積山に、究極体に進化したウィルドエンジェモンがひざまずいた。
「 仰せのままに。 慎 」
「町を護ってください」
ハニエルは静かな仕草で頷き、背の翼すべてを広げた。
台座の左右に巨大な翼が投影される。
「光の加護を・・! [カーナン]!!」
台座を囲む飾りから光が放たれ、町を囲む。
光のドームの中に一点、加護の技を受けていない場所があった。
マグナモンのいる場所だ。
「聖なる光か・・? 闇祓いの技だな・・?」
「いいえ、違います」
光のベールの向こう側からカオスデュークモンが答えた。
積山とウィルドエンジェモンも融合し、漆黒の翼が一対、背に生えている。
「お前は『闇の守護帝』だろう? そんな光の中でよく消滅しないな」
マグナモンにとっては、いや、その場の“積山たちをよくしらない者”にとっては至極当然の疑問だった。
カオスデュークモンはふっ、と笑みをもらし、マグナモンを見る。
「 そもそも闇は光と共存しているものですよ 」
そう言って積山はマグナモンを見つめた。
 
恐らくロイヤルナイツとして理不尽な任務や無意味な殺戮も行なってきたのだろう。
イオ達がそうだったように。
マグナモンの鎧は黄金に輝いている。
だがそれだけに装甲の裏や素肌に落とされた影は、濃い。
 
カオスデュークモンは提案する。
「できれば倒したくはない。退いてくれますか」
もちろん答えなど  ―――悲しい事に、予測できていた。
 
 
「  断る  」
 
 
「  残念です  」
 
 
マグナモンの黄金の鎧が貫かれる。


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