「 イグドラシル・・・。私は・・・、なんだったんですか? 」
倒れたマグナモンは茫然と呟いた。
そして自分を見下ろす積山やカオスデュークモン、ハニエルを順に見つめる。
「倒してくれますか。イグドラシルを」
積山は答えなかった。
カオスデュークモンもハニエルも答えあぐねる。
マグナモンはもう体を動かそうともしなかった。
「 とても気分がいい。吹っ切れたんですよ。もう何も恐れる事がない 」
「しっかりしてください」
ガルゴモンやウィンディモンに支えられながらクズハモンがマグナモンに近寄り、傍らにしゃがむ。
自分の手を握るクズハモンを見てマグナモンはポツリとつぶやいた。
「私はロイヤルナイツに所属してすぐの頃とはかけ離れてしまった・・・。光に汚されてしまった・・・というのか・・?」
「何を言っているんです! ガルゴモン!水を!!」
数人の住民達やカオスデュークモン、そしてマグナモン自身が驚いた。
「助けて・・・くれるのか・・?」
「今のあなたは“サスペントタウンの大事な客人”です!」
「・・・すまない・・・!」
鎧の力の源であるプロトコルをクズハモンに預け、マグナモンはそれ以来眠り続けていた。
今までの戦いの日々のなかで本当に彼が休めた日などなかったのかもしれない。
積山はマグナモンが本当に危害を加える気がないのを認識し、サスペントタウンを出発することにした。
「もうすこしゆっくりしていってもいいんだよ?」
積山の具合の心配もしているガルゴモンはそう言って引き止めた。
出発前にクズハモンにお礼を言うつもりの積山は首を横に振る。
「そうそうのんびりしてられないんですよ」
それを聞いてこんどはトゥルイエモンが口を挟む。
「のんびりすることも大事だと思うよ」
町の中央、神社の端にある簡素な家の前に着き、積山とギルは振り向いた。
「ありがとう」
「裁を呼んできてくれ。多分まだ子供たちと遊んでると思う」
幼年期デジモンといっしょにいる時間が長かった裁はたぶんまだ保育施設にいるのだろう。
トゥルイエモンが立ち去って、ガルゴモンは右手を突き出した。
「ありがとう。町を守ってくれて」
積山とギルは顔を見合わせ、首を振った。
ガルゴモンは微笑み、再度言った。
「本当にありがとう」
ガルゴモンは積山とギルが扉の向こうに消え、その後しばらく待って、自分の家に戻った。
イグドラシルの居場所はマグナモンに訊いていた。
ポート荒原を横断し、山脈を越えたその先だ。
「“いける所”までいこう」
積山はプログラムカードを挿入する。
進化したウィルドエンジェモンの台座に座り、積山は自分達が始めてデジタルワールドの土を踏んだ場所を見据えた。
「ねぇ、大丈夫?」
「うん、そこそこね・・・」
二ノ宮は自分の背中に向かって声をかけた。
背負われていた彩華は具合の悪そうな声を返す。
めまいを訴え、それ以来二ノ宮とレッパモンが交代で背負って歩いた。
基本的に移動はキャノンビーモンでの移動だったがキャノンビーモン自体があまりにも目立ち、また、完全体の状態を長時間維持できなかった。
二ノ宮のすぐ隣を歩き、林未は彩華の様子を覗う。
顔色は・・・悪い。
熱は・・・ない。
咳とかも・・・ない。
本当にただ単にめまいがするだけらしい。
イオはしきりに心配がっていたが、めまいの原因はさっぱり分からないらしい。
団長にもこういう症状が出ることはあるか、と訊いてみた。
返事は、
「・・メマイとは・・・なんだ?」
だった。
何気なく彩華の右腕に目をやった林未は驚く。
デジヴァイスの画面が点滅していた。
少しずつその点滅の感覚が狭まる。
「デジヴァイスを外せ!!」
「え!? ええ!」
二ノ宮は一瞬あっけにとられ、すぐに彩華を下ろし、デジヴァイスを外そうと振り向いた。
その瞬間胸を蹴り飛ばされる。
予想もしなかった攻撃が肺を潰し、息がつまる。
立ち上がった彩華はただ、地面に倒れて咳き込む二ノ宮を見下ろす。
「どういうことだ!!」
林未は鞘に納まった状態の草薙丸を横に薙いだ。
それよりも一瞬早く、彩華の姿が消える。
自分の光の屈折率を操り、姿を変えたり消したりする。
それが『光の粛清者』の能力だ。
一瞬の感覚だけで背後からの強烈な蹴りを受け流す。
素足の上に閃甲を装着し、その上からブーツを履いていた彩華の蹴りは本人の格闘能力と閃甲の能力との相乗効果を生み出す。
姿を消された上に容赦のない攻撃にさらされ、しかも相手を攻撃できない。
やっかいな相手と戦う状況に陥り、和西はあることを思い出し茫然とした。
その時のことはまるで昨日のことのようによく覚えていた。
アンノウン戦の際、身体検査の結果報告に、それはあった。
『デジヴァイスをつけてる右手から電気的な信号が出ている。・・・たぶん、脳とか全身の筋肉とかに・・・・・・・・・・・・作用してる』
『D-ギャザーの電気信号が脳へ与える作用は恐怖や迷いを抑え、闘争心を向上させ、より戦闘に向いた精神状態に近づける』
『戦うためだけの存在になるかもしれない』
「D−ギャザーの・・・、暴走・・?」
立ち尽くす和西の背後に彩華が音も無く姿を現す。
「ぼさっとするなァ!!!」
ゴマモンが体当たりを仕掛け、手加減なしの回し蹴りに打ち払われる。
「ギャァ!!! こいつ本気だ!!」
地面を転がったゴマモンが呻く。
恐る恐る振り向いた和西の目に彩華がプログラムカードを読み込ませる姿が映った。
「ま・・・、待て・・!!」
和西が押さえにかかると同時に彩華の姿が消え、バランスを崩した和西の数メートル背後で二ノ宮が悲鳴をあげる。
宙吊りになった彼女の首の下に、手から順にスレイプモンが姿を現した。
装甲の銀装飾に彫りこまれた紋様が黒く染まっている。
二ノ宮はとっさにコートの下に手を伸ばし、腰の後ろから『斬鉄の手斧』を抜き、自分の首を絞める腕に打ちつけた。
急に開放され、仰向けに地面に叩きつめられる。
絞められた首を押さえる二ノ宮の腹にスレイプモンのボウガンが突きつけられた。
「・・・・に・・げてぇ・・。殺し・・・てェ・・・」
スレイプモンの体が不自然にぶれ、二ノ宮は思わずスレイプモンの顔を抱きしめた。
「殺すわけないでしょう!!? しっかりして・・! いつもの彩華ちゃんに戻って・・・」
二ノ宮の目からこぼれた涙がスレイプモンの頭を覆う鎧に落ちる。
その瞬間、スレイプモンは二ノ宮を突き飛ばした。
「やめろォォォォお!!!!! これ以上傷つけるなああぁああぁぁ!!!!」
絶叫し、スレイプモンはその場に崩れ落ちる。
アルファモンと団長がスレイプモンに飛びつき、両腕を押さえつけた。
アルファモンに変化したイオが叫ぶ。
「何をしている!!? 早く押さえつけろ!!」
アルファモンが叫んだと同時にスレイプモンは渾身の力を込めて2体を振り払った。
「消ス・・!殺ス・・!消ス・・!殺ス・・!消ス・・!殺ス・・!!!」
スレイプモンの動きが止まった。
視線の先に鳥のような姿をした巨大な黒いデジモンが飛んでいる。
「もう・・・だめ・・・」
スレイプモンはそういい残し、姿を消した。
砂煙が鳥のようなデジモンが飛ぶ方向に勢いよく走り、風に流される。
「早く」
和西は無意識に呟いていた言葉に覚醒させられた。
「早く追いかけろ!」
彼の眼が蒼く染まる。
ゴマモンが肩につかまったのを確認して和西はスレイプモンが残した砂煙を追う
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