エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 27    Episode...27 [砕けた光]
更新日時:
2008.08.08 Fri.
周囲の音がほとんど聞こえない中、スレイプモンが疾走する。
積山彩華の全身を冷たい水のような悪寒が駆けずり回った。
気が狂いそうなまでに強くなる破壊の衝動が体を押さえつけ、ボウガンを構えさせようと猛り狂う。
かすかに残った理性だけではその衝動は抑えきれず、偶然目に入ったセーバードラモンに野性の注意を向ける事で大切な仲間を傷つけることだけは避けた。
 
スレイプモンの後を攻防両立の絶妙な間合いをとってアルファモンとタイガーヴェスパモンが追い続けた。
タイガーヴェスパモンはすこし前を猛スピードで飛ぶアルファモンに話しかけた。
「さっきから・・、速くなってる気がする!」
「同感だ・・。いや・・、確かに速くなっている・・・!」
アルファモンは様々なものが自分の周囲を飛び去っていくのを感じ、舌打ちを漏らした。
「離れすぎている・・!一か八か・・・・、止めるぞ!」
「了解・・!」
タイガーヴェスパモンは限界までスロットルをあげ、スレイプモンに一気に追いついた。
「お腹蹴ったぶんねッ!!」
そう叫ぶと同時にタイガーヴェスパモンの右足がスレイプモンの背中を叩く。
真上からの衝撃に堪らず地面にたたき付けられたスレイプモンは器用に受身をとって立ち上がった。
その目前にアルファモンが迫る。
「お前のためだ・・・! 一瞬ですます!! [デジタライズ・オブ・ソウル]!!!!」
その瞬間、アルファモンの右脇に一筋の影がさした。
デュナスモンはアルファモンの眼を覗き込み、笑いまじりに言った。
「手加減しているな・・。あいかわらず仲間好きなヤツだ・・」
アルファモンの眼が見開かれる。
「・・!! [聖剣召喚・グレイダルファー]!!」
アルファモンが魔方陣に手を添えたと同時にデュナスモンの両手の宝石が煌く。
「遅い!!! [ドラゴンズロア]!!!」
デュナスモンの両腕がアルファモンを貫く直前、デュークモンがアルファモンに体当たりし、間に割ってはいる。
強烈な爆風がアルファモンやスレイプモンをなぎ倒し、イージスが粉々に砕け散った。
 
デュークモンの状態を維持できなくなったプロトコルが緊急停止し、宙に投げ出されたカリストは硬い岩だらけの地面にたたき付けられて数メートル転がり、動かなくなった。
それを見たアルファモンは凄まじい威圧を伴う眼でデュナスモンを睨む。
「貴様ァアア!!!」
「我等が君・イグドラシルを裏切ったお前がなぜ憤る?」
至極当然そうな表情でデュナスモンはカリストを踏みつけた。
「目障りならデータの屑も残さず消してやろうか?」
カリストの背を踏みつけるデュナスモンの右脚に力がこもった。
その瞬間、反射的にアルファモンが突進する。
「やめろおぉぉおおぉぉおお!!!」
 
大きく弧を描いたアルファモンの剣は何もない空間を薙ぎ払った。
 
大きく見開かれたアルファモンの眼に、それを覗き込むデュナスモンの眼が重なる。
 
 
「 だからお前は勝てないのだ 」
 
 
3度目はない。
デュナスモンは確信していた。
間違いなくこの一撃でコイツは・・・、黙る。
 
爆発、 そして、 強烈な衝撃波が地面を吹き飛ばし、クレーターを創り出す。
砂塵が舞う中、アルファモンが消えるのを歓喜の表情で探すデュナスモンは眼を疑った。
 
強い光沢を持つ鋼鉄の壁が目の前に広がっていたからだ。
その鋼鉄のモニュメントはデュナスモンの足元までも覆い、カリストの姿をも覆い隠している。
「これは・・・何事だ・・・!?」
デュナスモンが驚愕の声を上げた時だった。
突然目の前の鋼鉄の壁が砂になり、周囲に撒き散らされる。
中からアルファモンが現れ、再度剣をかまえた。
「今度は終わりかな? デュナスモン」
首筋の装甲の隙間に剣を突きつけられ、デュナスモンの全身が戦慄し、硬直する。
「どうやって避けた? X抗体が完全に完成した私の攻撃は『イージス』も破壊するのだぞ!?」
「それは私の能力。巻き上げた砂を鋼鉄に変えさせてもらったわ」
眼だけを背後に向けたデュナスモンの視界に二ノ宮の姿があった。
右手甲の紋様から光が引いていくところだった。
「砂を・・、鋼鉄に変えた・・・?」
「ええ。貴方の体もね。  ・・・動けないでしょう?」
涼しげな表情を浮かべ、二ノ宮はデュナスモンを見上げた。
関節が金属化し、動かない。
「そういうことだ。・・・まず、謝るんだな。カリストに」
アルファモンの剣がさらに突きつけられる。
金属化させられているとはいえ、『聖剣グレイダルファー』を突きつけられては首が危ない。
しかしデュナスモンは応じなかった。
「それは出来ない相談だな。騎士として、裏切り者にわびるなど」
忍耐を切らしたアルファモンは冷たく言い放つ。
「ならここまでだな」
 
そういい終わるか終わらないかの刹那に、別の声がアルファモンの声に被さった。
驚いて振り向いた二ノ宮はボウガンをかまえるスレイプモンを見て、すぐに進化プログラムカードを取り出す。
まだそれが読み込めないうちに、スレイプモンが再度叫んだ。
「逃げ・・てェ・・!!」
二ノ宮の口元を一筋、血が流れた。
「・・・彩華ちゃん・・・」
そう呟き、二ノ宮は再び考え始めた。
 
どうすればいいの・・?
どうすれば助けてあげられるの・・・?
和西くん・・、あなたならどうする・・?
積山くん・・、あなたならどうする・・?
 
胸の奥から悔しさがひしひしとこみ上げてきた。
 
 
 
数年前。
組織・研究所の地下実験室。
二ノ宮涼美、通称『No−03』が寝起きしていたのは窓もない小さな部屋だった。
子供に合わせて張り詰められた可愛らしい動物柄の壁紙がやけに白々しい。
やがて朝を知らせる物音が響き、『No−03』はいやそうに目をそむけた。
「問診だ。起きなさい」
あまり10才の女の子に向かって言うような口調とは言い難かった。
二ノ宮はうつむいて、されるがままになった。
抵抗しても無駄だと分かりきっていたからだ。
体温を測られ、心電図、血圧、脳波。
さらに、有無を言わさず注射器が腕に刺さる。
採血が終わり、研究員が退出するころには『No−03』の顔は涙でぐっしょりと濡れていた。
 
 
 
二ノ宮はテイマーとパートナーデジモンという関係が嫌いだった。
ファンビーモンは大切な友達だが、それでもだ。
 
パートナーがいる、それだけで義務教育すら終えていない子供たちが戦場で命を晒す。
 
19才になり、二ノ宮は“十闘神”として、仲間が戦うのを目の前にするたび、心臓を握りつぶされるような錯覚に陥った。
虐待され、普通の生活から切り離され、銃を握り、戦った。
一度、犯罪者を銃殺したこともあった。
そんな彼女だからこそ、普通の生活を何より望んでいた。
自分から戦場に乗り込んでいく和西達を見て、二ノ宮は、絶望した。
失ったからこそ、切望した“平和”がもがくたびに遠のいていく。
だから。
 
彩華には家族がいる。
兄の慎。育て親の土井藤という男性。
すぐには数字を上げる事が出来ないほどのたくさんの友達。
かならず帰って医者になるという夢。
彼女を病床で待ち続ける意藤。
 
それらを黙って切り離させるわけにはいかなかった。
「 逃げないわ・・。必ず連れて帰るんだから!! 」
タイガーヴェスパモンは鋼鉄の膜を突き破ってスレイプモンに突進する。
とっさにボウガンを引いたスレイプモンの手から武器を薙ぎ払った。
ビームランスを振るい、正確に武装だけを排除していく。
スレイプモンの中にある二つの性格のうち彩華の理性は攻撃を受け入れていた。
しかし、暴走する野生はそれを受け入れず、果敢にはむかう。
いままで理性と野生が打ち消しあっていた体の動きが急激に激しくなる。
スレイプモン本体を傷つけないことだけに集中していたタイガーヴェスパモンはとっさの反応が遅れた。
「ありがとう・・・、死ね・・・」
悲しげに呻き、スレイプモンはタイガーヴェスパモンの体に覆いかぶさる。
 
一瞬金属化が送れた。
 
タイガーヴェスパモンの胸の装甲がスレイプモンの前足に半分踏み潰される形で金属化している。
スレイプモンの体重に押され、がっくりと膝をついたタイガーヴェスパモンは腰の後ろから『斬鉄の手斧』を抜いた。
「犠牲なしになんとかしようなんて思っちゃいないのよ・・・」
 
暴走の原因は右腕に巻かれたデジヴァイスだ。
それを外せば暴走は止まる。
しかし、彩華の夢は医者になること。
外科医になって意藤の手術をし、病気を治すことだ。
そのために両腕は無くてはならない。
腕ごと切り落とす方法は選択できない。
なぜなら生き残っても腕がなければただ絶望するだけになるからだ。
デジヴァイスだけをピンポイントで破壊するには至近距離で装甲の上から攻撃するしかなかった。
 
「・・もう少しおだやかに密着したかったよね」
タイガーヴェスパモンはスレイプモンの右腕を押さえつけた。
「今・・、助けてあげるから・・・!」
最後の力を振り絞って、タイガーヴェスパモンは斧を振り下ろした。
 
あらゆる金属を叩き切る斧はスレイプモンの腕を覆う鎧ごとデジヴァイスを切断する。
 
 
まばゆい光が一瞬、世界を覆った。
 
純白の世界にスレイプモンとタイガーヴェスパモンは吸い込まれた。
力尽きて退化した二ノ宮の手の中に光り輝く水晶が落ちる。
デジヴァイスに内蔵されていたものだ。
あまりの美しさに目を奪われていた二ノ宮の髪をなにかが触る。
驚いて顔をあげた二ノ宮の前に彩華が立っていた。
トレードマークだった帽子も組織のコートも身につけていない。
鮮やかな赤の髪が髪留めの拘束から放たれ、吹き過ぎる風に踊る。
そのまま二ノ宮の下にもぐりこみ、そっと抱きしめた。
二ノ宮も彩華を抱きしめ、風にあおられて暴れる髪に顔をうずめる。
「ごめんね・・。こうするしか私には出来なかったの・・!私が出来る事はこれが・・・限界・・!」
二ノ宮に体重を預ける彩華は首を一度、横に振った。
『ありがとう・・。とても苦しかったの・・。さびしくて冷たくて・・・。ありがとう。涼美ちゃん、あったかい・・』
今にも消えてしまいそうな声を聞き、二ノ宮は眼を見開いた。
「だめ・・、だめ! 積山くんをどうする気!? 意藤さんは!? 行っちゃだめ!!!」
『 ・・ごめんね 』
いったん腕を離し、彩華は二ノ宮の額に頬をこすりつける。
『涼美ちゃん、ごめん。・・・あたし、もうだめみたい』
「・・お願い・・、行かないで・・・。お願い・・・お願い・・・お願い・・・」
彩華が二ノ宮の体から手を離した瞬間、光が消えた。
同時に二ノ宮の腹部に凄まじい痛みが走り、彼女はそのまま倒れた。
右手に握られた水晶が手を離れ、砂地を転がる。
 
 
 
ゆっくりと目を開けた積山彩華は体を起こした。
全身が痛み、思わず呻いて痛みに顔をしかめる。
頬を血が一筋、流れた。
痛みをこらえて周囲の様子を覗う。
純白の世界に少しずつ目が慣れていき、なにか建物の中だと言う事が分かった。
壁に設けられた手すりにすがり、なんとか立ち上がる。
廊下の向こうをなにかが音をたてて横切った。
その方向から話し声が聞こえる。
英語だ。
彩華はその方向へと歩き始めた。
ほとんど壁にもたれかかるように進む。
どうやら病院らしい。
彩華はもう何も考えていなかった。
ただ無意識に足が進む。
すばらくすると手すりが途切れ、彩華は室内に倒れこんだ。
 
 
時間稼ぎの手術を終えた意藤は麻酔からさめ、目を開いた。
アメリカの日差しにはそろそろ慣れてきた。
その日差しに照らされた純白の室内を見渡し、意藤はベットの脇を見つめた。
彩華がベットにもたれかかっていた。
自分の左手を胸の中に抱きしめて目を閉じる彩華の髪を撫で、意藤は目を細めた。
「久しぶりだね。彩華ちゃん」
微笑みを浮かべる意藤の頬を涙が伝う。
「元気・・・だった・・? ・・そんな・・・所で・・寝てると風邪・・引く・・よ?・・」
廊下から続く血の跡のなかに、『閃甲』が転がっていた。
 
 
 
「しっかりしろ・・、二ノ宮涼美・・」
意識を失った二ノ宮を抱き上げ、イオは茫然となった。
彼の目の前で彩華のデジヴァイスに内臓されていた水晶が砕け散った。
 


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