肩で息をするたびに広大に広がる荒野が上下する。
和西は額の汗をぬぐい、呟いた。
「だめだ・・・、速すぎる。とても追いつけない」
和西、黒畑、カリスト、林未、柳田の5人は途中でガニメデとエウロパに合流した。
「すまない、見失った」
背にマントをたなびかせたクレニアムモンはすまなそうに首を横に振った。
「こっちもだ。アルファモンは我々の中でももっとも速く飛ぶ。とても我々は追いつけない」
カリストは舌打ちを漏らした。
「まったく・・・、追いつけないとか言ってる場合かい?追いつけないなら追いつけるようにさっさと動くんだよ!」
それを聞いて柳田は手を叩いた。
「おおぉ! ええこと言うなぁ! そのとおりや」
「黙れよメガネ・・!」
「きっつい性格・・・・」
すねて、カリストを横目で睨みながら柳田はプログラムカードをコートから出した。
「コクワモン進化!」
コクワモンが進化を始めたのを見計らい、カリストは柳田の腕を引いて引き止める。
「なにかあったらすぐ戻ってこい。分かった・・・?」
「 ブレイドクワガーモン 」
2メートル以上ある巨体が砂地に着地する。
その背に飛び乗り、スケートボードの要領で立ち上がった柳田は手を掲げて見せた。
「了解! じゃ、ちょっと見てくるで!」
「ちょっと待て、オレ達も行く」
林未・コテモンが柳田の足元まで走り寄り、ブレイドクワガーモンの背に乗る。
一瞬あっけにとられた柳田は頷いた。
「ブレイドクワガーモン! 行くで!!」
まるで床を鞭で叩くような音を出して、ブレイドクワガーモンが飛翔する。
あっという間に和西達を背にし、ブレイドクワガーモンは空を飛んだ。
正面の荒野を見つめながら柳田は叫んだ。
「ケンスケ! コテモン! 落とされンなよ!!」
「誰に言っている?」
柳田は風を肺になだれ込ませ、笑った。
「はははっは!! そうやった! お前やった!」
ゴウゴウと音を立てて風景が左右を飛んでいく。
柳田がひとしきり笑い終えたとき、林未の頬に水滴がかかった。
「・・・もう嫌や・・。離れ離れになるん・・、嫌や・・・」
林未は鼻をならし、言った。
「バカか? 嫌なら・・・、泣いてるヒマあったら眼ェ見開いてろ」
振り向いた柳田は満面の作り笑顔に涙を浮かべて頷いた。
「あぁ、ああ」
柳田は笑顔で正面を見つめた。
彼は分かっていた。
今、自分が笑顔を失ったら笑顔がなくなってしまうことを。
引きつった頬を涙が流れる。
林が点在するサバンナのようなエリアの獣道を、2列渋滞でデジモンたちが進んでいた。
先頭をウィザーモン、ヤシャモン、嶋川、アグモンが二人ずつ並ぶ。
その最後尾に辻鷹・ガブモンが続く。
もとからあまり元気な表情ではなかった辻鷹の表情は暗い。
「今朝の災害、結構近かったね・・」
その朝に起こった地震は結構大きく、嫌でも悪く考えてしまう。
一方、嶋川はそれ自体については深く考えていないようだった。
すっかり無口になってしまった友人を見て、辻鷹はため息をついてガブモンに耳打ちする。
「そっとしといたほうがいいのかな」
「そういう質問おれにするなよ」
ガブモンはきまり悪そうに身をよじる。
そうして、しばらくしてガブモンは答えた。
「・・・そっとしておいたほうがいいに決まってるんじゃないのか?」
辻鷹はそれを聞いてため息をつく。
「 ぼくにはそれしか出来ない・・・ 」
ガブモンと辻鷹がそろって肩を落としたのを見かね、すこし前を行くゴリモンが振り向いた。
「思ったより早めに着きそうだ。ドラゴンズバレーには今日中に着けるぞ」
「そう?・・・あっ! そうか。 うん、ほんとに思ったより早いね!」
気を紛らわそうと辻鷹は妙に明るい声で頷いた。
「・・・白々しい・・」
ガブモンは絶対誰にも聞こえないように呟く。
と、足元に違和感を感じてガブモンは思わず立ち止まった。
「? なんだ?」
「どうしたの?」
つられて立ち止まった辻鷹はガブモンを見た。
そしてその向こうの景色を見て愕然とした。
「え・・・・?」
水平線が・・・無い。
辻鷹の背筋を戦慄が走った。
「・・・ッ!!!! 走れ!!!」
彼が叫ぶのとほとんど同時に轟音を立てて大地が崩れる。
すこし遅れて辻鷹とガブモンが一団を追う。
「くッ・・! ガブモン、やるぞ!!」
肩に羽織ったコートの胸ポケットからプログラムカードを引き出す。
「ガブモン進化!!!」
一歩強く踏み込み、地面を蹴った辻鷹の眼下で先頭のほうで火柱が上がるのを見た。
「アグモン進化!!!」
「 メタルガルルモン 」
「 ウォーグレイモン 」
X抗体を持つデジモン特有の結晶体から放たれる光が宙に線を引く。
メタルガルルモンは次々とデジモンを抱え上げる。
「足につかまってください!」
「すまない・・!」
リボルモン、ヤシャモンが目の前に差し出された足に取り付く。
が、まだ走り続けているデジモンは多い。
ウォーグレイモンは長時間飛ぶことは出来ない。
しかも自力で飛べるものは極わずかだ。
「くそう・・・、くそう・・!!」
辻鷹の、メタルガルルモンの脳裏に谷川が消滅する様子がちらつく。
自分の飛行能力の低さ・・、自分の力の限界に全身がねじれるような錯覚を覚えた。
「くそう・・、くそう!!! くそう!!」
「く・・・!崩れるぞ!!」
メタルガルルモンの背でゴリモンが叫んだ。
轟音と砂煙をあげ、辻鷹の真下から大地が消し去った。
あと数秒でこのなにもないデータの狭間に嶋川たちが、落ちる。
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