エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 30    Episode...30 [はじまりを告げる剣]
更新日時:
2008.08.25 Mon.
「やれやれ、10分で来てやったってのにねぇ」
峰打ちで気絶させられていた二人を見下ろし、ババモンはため息をついた。
嶋川も辻鷹も武器が5メートル以上離れたところに落ちている。
ガイオウモンはすでに菊燐を腰に吊って待機していた。
「師匠・・・。 どうしても彼らはイグドラシルに立ち向かわなければならないのですか?」
「ああそうだよ。 このガキどもはそのために“選ばれた”のさ」
大きな石に腰を下ろしたババモンの前にガイオウモンは言った。
「いつか私に言いましたね。“お前ではイグドラシルには勝てん”と」
「そのお前にすら勝てんから困っとるんだ」
ババモンは箒の柄に手のひらを重ね、あごを乗せた。
「どうしたもんかねぇ」
ババモンのため息が消えるとほぼ同時にヴィクトリーグレイモン、ガブモン、アグモンが木の陰から姿を現す。
「ありゃりゃーりゃー・・・。 だめだったんな?」
ヴィクトリーグレイモンは茫然と呟いた。
ガブモンもアグモンも無言で立ち尽くす。
辻鷹と嶋川の様子を見て、ヴィクトリーグレイモンはガイオウモンを見た。
「手加減したな? 気絶させただけってか。 いいようにあしらった、ってとこな?」
つぎにババモンを見てつぶやく。
「師匠も人がわるいんな。 パートナーと一緒に戦わせりゃいいのに」
ババモンは完全にあきれ調で箒を投げつける。
「だからお前はジュックジュクの未熟モンなんだ。・・・ったく」
ババモンは岩から飛び降り、嶋川と辻鷹に聞こえるように怒鳴った。
「どうせ起きてんだろ? 明日から訓練してやる。ちょっとは見込みが出るようにしてやるよ」
最後に鼻を鳴らし、ババモンはヴィクトリーグレイモンの手から箒をもぎ取るとさっさとその場から姿を消した。
嶋川、辻鷹をその場に残し、ガイオウモンも立ち去る。
二人をほったらかしにするのは気がひけたが、ヴィクトリーグレイモンは呟いた。
「訓練の内容考えなきゃ・・な」
宿舎まで担いでいくべきか・・? 何かはげましてやるべきか・・?
そんなことを考えながらヴィクトリーグレイモンはアグモンとガブモンの前を横切る。
数歩歩いても誰もなにも言わず、ヴィクトリーグレイモンは逃げるようにその場から走り去った。
 
 
 
和西達はブレイブナイツに混じり、焚き火を囲んでいた。
「ったく遅いな・・・。なにやってんだ? あいつらは!」
カリストの“もとから少ない忍耐”がそろそろ限界に近づいている。
「黙って待っていろ。そのうち帰ってくる」
ガニメデがぼそっと呟く。
「? そのうちっていつさ!?」
「カリストうるさい」
カリストはガニメデに食ってかかったが、エウロパがなだめる。
なんとか場の空気を静めようと和西は焚き火を指差した。
「こんなに明るい焚き火がいくつもあるんだからさ。すぐ見つけて帰ってくるよ」
「・・。分かってるよ、そんなことは」
それきりカリストは焚き火に背を向けて横になってしまった。
この結果はどうとるべきか和西が思案をはじめたとき、見張りのナイトモンがなにか見つけたらしい。
そばにいたナイトモン・ムードゥリーがそばの剣を手に取る。
一行がキャンプを構えていたのは崖を背に視界が広い場所だった。
 
情報では、その崖の上になにかいる。
「下がれ」
そばにいたナイトモンが黒畑、ロップモンを背に隠し、剣の柄を握り、抜いた。
若干風が出始め、砂が巻き上げられた。
 
その瞬間崖の上の影が消え、ほとんど同時にそのナイトモンが両断される。
「なァ・・・・・!?」
痛みも感じないほど、一瞬の出来事だった。
消滅したナイトモンの後ろから現れた黒畑とロップモンに剣を向け、それは言った。
「 イグドラシルの意思によりお前達を削除する 」
目深に被った笠で顔は見えない。 だがその声は大人の女性の声だった。
右手に握られる剣は細身で片刃、剣というよりも刀だ。
数テンポ遅れて黒畑は腰の短刀・『龍脈剣』に手を伸ばし、ロップモンは空気を口に吸い込む。
 
しかしロップモンが[ブレイジングアイス]をふくよりも速く笠の女性は刀を袈裟に斬り下ろし、さらにそれよりも速くカリストのナイフが刀を弾く。
 
超高音が響き、荒地の岩場に折れたナイフが吸い込まれ、闇の中に消えて見えなくなった。
使い物にならなくなったナイフを即座に投げ捨て、カリストはもう一本のナイフを逆手で抜く。
「あんた・・、生きてたんだね。『東方の剣士』・・!」
「他に気配が感じられない。・・・一人だな? いい度胸だ」
そう言ってガニメデはジワリと東方の剣士の背後をとった。
「私は裏切り者になど・・、負けはしない」
剣士が刀をかまえたと同時に黒畑は背後の空からなにかが猛スピードで迫ってくるのを感じ振り向いた。
 
ブレイドクワガーモンが全速力で突撃し、その上から柳田が『雷槍』を乱射する。
素早い動きと長い刀の刀身を利用し、全て押さえ込んだ剣士にはやはり、隙が生じた。
「上出来だ」
「そりゃどーも」
柳田の脇から飛び降りる瞬間、林未は彼と短い会話を交わした。
『草薙丸』を振りかざす林未には目もくれず、剣士は逆手に持った刀で斬撃を受け流す。
草薙丸を弾き、間合いをとると同時にその周辺にいたナイトモン3体が巻き添えをくって消滅する。
次々と消滅する仲間を見て一体のナイトモンが剣士に襲い掛かった。
額の赤いライン。ムードゥリーという愛称のナイトモンだ。
しかし簡単に渾身の一撃を受け流され、耐え切れなかった剣は途中でへし折られる。
その大きさにして自分の2倍もある剣を下した剣士は返す手でムードゥリーの首を狙った。
為す統べなく、倒れこむしかなかったムードゥリーの首に刀が差し掛かる寸前、ブレイブナイツ団長の剣がそれを阻んだ。
「デジモンに変化せずともその強さ、流石だな、ロイヤルナイツ」
剣士は反撃を避けるために再び間合いをとり、すこしの隙もないかまえで刀を向けた。
団長はその刀を見つめて呟く。
「黒塗りだが・・・、その刀、ゴールドデジゾイド製とみた」
東方の剣士は刀を構えたまま、答える。
「見る目がありますね。これは経験を積むたび硬く、強くなる」
地面に刺さった草薙丸を抜いた林未はその声を聞いて愕然とした。
 
そんな馬鹿な・・・、ありえない・・・。
林未は驚愕の表情を浮かべ“東方の剣士”を見つめた。
団長が再度大剣をかまえ、すこしずつ剣士に詰め寄る。
 
「やめろ! 手を出すな!!」
思わず叫んだ林未はコテモンが止めるのもきかず団長の前に割ってはいる。
「どけ! お前の敵う相手ではない!」
団長は怒鳴り、剣をかまえるが林未はそれを許さなかった。
「手を出すな! 絶対だ! こいつは・・・、このひとは・・・!」
 
 
「オレの・・・」
 
 
東方の剣士は一瞬険しい表情を笠の下に浮かべ、崖の上に戻り、走り去る。
林未はデジヴァイスにプログラムカードを読み込ませた。
コテモンをシュリモンに進化させ、その背に飛び乗る。
「これは我々の問題だ・・・。頼む、待っていてくれ」
そう言い残し、シュリモンも崖の上へと消える。
 
茫然と和西は呟いた。
「まさか・・・、ケンスケの、お姉さん・・・?」
 
 
 
「もう少しです。・・・あ、そこに降りてください」
案内のプリンプモンの支持に従い、ハニエルの巨大な台座が荒れ果てた森の高い木々の間をすり抜けた。
とたんに月明かりが積山、ギル、ハニエルの顔を順に照らし、目の前に水平線が果てしなく広がる。
波の立てる音は心地よかったが、冷たい気配が周囲を覆いつくしていた。
「・・、あれですか?」
積山は右に目をやり、海上に開いた暗黒の穴を指差す。
プリンプモンは答えた。
「そうです。あれが・・・『暗黒のゲート』です」
 
 
積山、ギル、裁がその町に着いたのはちょうど昨日のことだった。
めったに訪れない客人を町のデジモンたちは快く迎えたが、“めったに客人がこない”理由を語った。
一つは、この町を2日ほど歩いた場所に『機械帝国・メタルエンパイア』が存在すること。
もう一つはメタルエンパイアとの境にある広大な森を南に抜けると海に出て、その海上に数年前から奇怪なゲートが開いたからだと説明した。
「そのゲートはなんですか?」
積山の問いに町を治めているというマジラモンが代表して答える。
「分かりません。ただ、どうも様子がおかしいのです。とても不吉で、嫌悪的な・・・」
ため息をついて押し黙った住民たちを見回し、積山はマジラモンに訊ねた。
「見に行っても構いませんか?」
「構いませんが・・・、森は複雑です。案内させましょう」
 
 
砂浜にプリンプモンが停泊してから、波が立てる以外の音は聞こえない。
積山は無言でゲートを見つめ、あることに気づいた。
右手の甲の紋様が疼いている。
積山自身を蝕むアザを伝い、その疼きが右上半身を這い回るようだった。
「どうした?」
ギルは積山の顔を覗き込んで訊いた。
彼は黙って首を縦に振り、ゲートを見据える。
「あれは・・・嫌な予感がする」
全てを吸い込んでしまいそうな闇に覆われたゲートが海の上に開いていた。
 


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