エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 31    Episode...31 [桜の木の下で]
更新日時:
2008.08.28 Thu.
凄まじく悪い足場が続く樹海の中を“東方の剣士”がまるで平地を走るように駆け抜けていく。
それを追うシュリモンは、樹海を形成する大木の幹を蹴ってなんとか障害物を避けるのが精一杯だった。
シュリモンの背で剣士の背中を流れる黒髪を見つめ、林未はぼんやりとある女性のことを考えていた。
「健助、・・・。どうした?」
林未を“健助”と呼び、シュリモンは彼の様子を気にした。
「いや・・・。  ・・・シュリモン、オレはどうすればいいんだろうな」
「・・・・。止まって、話を聞いてもらおう」
そう提案したシュリモンは手足を限界まで伸ばし、剣士よりも数十メートル先の大木に先回りした。
「うぉおお![紅葉卸]!!」
右手に持っていた巨大な手裏剣を投げつけ、東方の剣士は直撃をさけるため一時的に動きを鈍らせた。
「待ってくれ・・・、お願い待って!! 話を聞いてくれ!!」
普段と明らかに違う口調で林未が叫んだ。
自分の目の前に並んで立った林未とシュリモンを交互に見定め、剣士の手がゆっくりと刀の柄に伸びる。
一方の林未は相手を刺激しないように少しずつ距離を縮める。
 
不意に微笑み、林未は東方の剣士に話しかけた。
「 姉さん、だろ? 」
不用意に近寄ってきた林未から一歩退き、剣士は刀身をあらわにした。
「“姉さん”? 知らないな」
東方の剣士はそう言ったが林未は笑顔を見せた。
「その声。覚えてるよ」
 
林未がそう言った瞬間、その首筋を刀が薙いだ。
シュリモンの攻撃で斬撃をそらされ、東方の剣士は背後に飛んで間合いをとる。
林未は一切動かなかった。
その頬を涙が一筋、流れる。
 
 
 
数年前のことだ。
本当にどうでもいいことでケンカをして、その上その相手に怪我をさせてしまったことがあった。
当時、中学生だった姉さんはそれを聞くと激怒した。
オレは必死で弁解したが姉さんはそれを聞かず、
「謝ってきなさい!」
と言って本当にオレをつれてケンカした相手の家までいって頭を下げた。
オレは泣いていたが、今思えばそれは姉さんを怒らせて、頭まで下げさせてしまったことに対して泣いていたように思う。
 
でも姉さんはその帰り道、姉さんが大好きな “桜の木” の下でオレを抱きしめて言った。
「お姉ちゃんね、ケンスケには絶対に人を傷つけたりしない人になってほしい」
姉さんはオレの目をしっかりと見て続けた。
「怒ったりしてごめんね」
 
 
 
「オレ・・・、絶対に傷つけたりしないから」
草薙丸を鞘ごとベルトから抜き、かまえる。
次の瞬間には草薙丸に東方の剣士の刀が襲い掛かっていた。
今まで傷一つつかなかった草薙丸にヒビが入る。
林未はその時、初めて東方の剣士の顔を見た。
 
さらさらの黒髪、落ち着いた色調の深緑の目。
顔立ちは林未の姉、キョウ、いや、“梗”そのものだった。
梗、桔梗の梗だ。
 
しかし目に浮かぶ凄まじい殺気だけは林未は知らなかった。
林未を睨みつけ、梗は呻くように言った。
「イグドラシルの意思により・・・! お前を削除する!!」
林未は叫び声を上げ、草薙丸を跳ね上げる。
すぐに再度の斬撃を繰り出す梗に林未はそれを受け止め、呼びかけた。
「姉さん!ケンスケだ! 目を覚ましてくれよ・・・!」
梗はそれを完全に無視し、鋭く、精密で、高威力の刀技を連続で叩き込む。
「やめろォォォォォオオオオ!!!!」
手裏剣を投げ捨て、シュリモンは両腕を伸ばし、東方の剣士の体を押さえ込んだ。
「邪魔だ」
梗は刀の一閃でシュリモンの腕を薙ぐ。
両腕を斬られ、シュリモンが痛みに叫んだ。
「シュリモンー!!!」
仰向けに木の幹に倒れこんだシュリモンにとどめをさそうとする梗に林未が背後から草薙丸を振り下ろした。
梗は背後を振り返ることもなくその一撃を刀で受け止める。
「さっきから何を言っている? 何度仕掛けても無駄だ。 お前の攻撃には迷いがある。」
シュリモンからコテモンに退化して消滅を避けたパートナーはその場からすぐに離れた。
林未はそれを確認し、笠の影と肩の間から覗く姉の目をみつめ、呟いた。
「“お前の攻撃には迷いがある”・・・? 迷うに決まっているだろう?」
 
 
 
同じ頃、リアルワールドの組織本部は蜂の巣を突いた状態だった。
ゲートが無数に開き、デクスドルグレモンが大量にリアライズしていたからだ。
全部隊が総動員され、各地で戦闘が行なわれる。
しかし住民の避難すら上手くいっていなかった。
逃げる所などなかったからだ。
隊長が不在の対空第二部隊も全員がキャノンビーモンで出撃する。
とはいえ現実は違った。
ただ地上でたくさんのデジモンが、中には自分のパートナーが墜落していくのを見るだけしかできなかった。
「キャノ・・・・・! いや・・・。いや・・・・。 いやぁぁぁぁああ!!!!」
相打ちでパートナーを失った隊員がその場に泣き崩れる。
デジヴァイスの画面がフリーズするのを茫然と見つめる者もいた。
突然彼女達の背後から無数のミサイルが放たれ、デクスドルグレモンだけを正確に打ち抜いていく。
タンクドラモンの攻撃だ。
それを率いて来た神原が怒鳴る。
「腰上げろ!! 泣いてんじゃねぇぞ! テメェら二ノ宮の部下だろうが。隊長の留守も守れねぇのか!!」
「すいません・・」
「 お前ら全員デジタルワールドで戦ってるやつらより年上だろうが。あいつらの帰るところくらい守ってやれなくてどうする 」
 
市街地から離れた小さな山に、一人の少女が走っていった。
避難しようと人ごみを掻き分ける人のうち、中年の女性が叫ぶ。
「そこの子!何してるの!!速く逃げなさい!」
自宅から全力で走り続けてきた名月は肩で荒い息を繰り返し、振り向く。
「 わたしは・・・、もう逃げるのはやめたんです 」
凛とした表情で振り向いた名月に中年の女性は近づいて腕を掴む。
「分けわかんないこと言ってないでほら!逃げるんだよ!食われちまうよ!」
 
「邪魔をするならお前を喰ってやろうか・・。あ?」
唸り声のような声で名月のパートナーが進化したケルベロモンが女性を睨みつける。
 
恐怖に悲鳴をあげて走り去った女性を見送ることもなく名月はケルベロモンの背に飛び乗り、山の中腹の桜の木に急いだ。
「ケルベロモン! デクスドルグレモンをこの桜の木の周囲1キロには絶対に近づけないで!」
かなりの長距離を全力で走りきり、体力の限界に達していた名月は桜の木によりかかった。
「待ってます・・。絶対にここを守りきって、生き残ってわたしはここで待っていますから・・・!」
林未との約束を破るわけにはいかなかった。
 
桜の木の下で待っていると約束したのだから。
 


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