ナイトモン達が持っていた設備を流用して設営したテントの中で二ノ宮はまだ泣き続けていた。
黒畑、カリストが付きっきりで元気づけようとしている。
熱いお茶の入ったカップを2つ持って、柳田とコクワモンは和西とゴマモンに近づく。
柳田はいったん立ち止まりどう言って声をかけようか迷った。
「・・和西?茶飲む?」
和西は驚いた顔で振り向いた。
すぐに乾いた笑みを無理に浮かべてお礼を言う。
柳田はカップを渡し、コクワモンからカップを受け取った。
「オレノジャナイノカ」
「お・・、お前飲めるんか?」
「ムリ」
柳田はあらためてカップを受け取り、和西の横顔を覗き見た。
「大丈夫か?」
「・・・。・・!? ああ、・・ああ!うん。大丈夫だよ」
「・・・そぉっか・・」
柳田は和西につられてうつむいた。
カップの中身が踊っている。
手が震えていることがよく分かった。
柳田は何とか会話をしたいと思っていた。
こういうときは誰かに話すのが一番だと知っていたからだ。
「涼美ちゃんさ、まだ泣いてんやって」
「『私のせいだ・・・』って自分を責め続けてる。彩華ちゃんが死んじゃったのは二ノ宮さんのせいじゃない・・・」
和西は右腕のデジヴァイスを見つめた。
たくさんの戦いで常に右腕を飾っていた“テイマーの証”はところどころ傷が目立つようになっていた。
光沢のある青を基調とした和西のデジヴァイス。
銀を基調とし、白と灰色のラインで縁取られたデジヴァイスが積山彩華を暴走させた。
「二ノ宮さんのせいじゃない。デジヴァイスの暴走に彩華ちゃんが・・、耐え切れなかったんだ・・・」
革が軋む音を聞き取り、柳田はその音源に目を落とした。
和西がはめていた丈夫な皮の手袋が強く握られ、軋んでいた。
「ギャァア・・・・」
柳田の眼が見開かれる。
とっさに『雷槍』を発動させ、弓を構えて警戒姿勢をとった柳田は立ちすくんだ。
「めんどくさいのが来よったぞ・・・!」
デクスドルグレモンの群れだ。
リアルワールドの群れよりは少ない。
だが柳田を戦慄させたのはその先頭をきるデュナスモンの存在だった。
「ゆけ、食事の時間だ」
デュナスモンの許可を心待ちにしていたデクスドルグレモンが一斉に喰いかかる。
「 『プロトコルクレニアムモン』、発動!! 」
「 『プロトコルドゥフトモン』、発動」
「 『プロトコルアルファモン』・発動!」
剣を手に次々と応戦するロイヤルナイツを見て、和西は立ち上がって叫んだ。
「待ってくれ!!」
3番手として両刃槍・“クラウ・ソラス”をかまえていたクレニアムモンは驚いてその手を止め、振り向いた。
「なんだ!?」
「デュナスモンは僕が倒す!! 絶対に邪魔をするな!!」
強い瞳でデュナスモンを睨む和西の腕をつかみ、柳田が怒鳴る。
「落ちつかんかい!あいつは彩華ちゃんを殺ったわけやないぞ!」
「式河さんを殺した!!」
荒々しい声で怒鳴り返し、和西は槍を手に握った。
「戦う理由なんてそれだけで十分過ぎる・・!!」
「はっははははははははっはは!!!!! おもしろいッ!!」
デュナスモンが一気に急降下し、和西が突き出した槍の軌道を捻じ曲げる。
「どうしたァ!!!? お前の力はその程度かッ!!!?」
頭上をとったデュナスモンの右腕が和西に被さった。
「・・・っ・・!!?」
コートの背が裂け、鮮血が吹き出る。
和西を見下ろすデュナスモンがささやいた。
「カオスモン・・、だったかな? バイスタンダーの最後の生き残りだったが・・・。お前もあいつと一緒か?」
「・・・・デュナスモン!お前!!」
怒りに身を任せた和西の拳は空を掻いた。
嘲るようにデュナスモンは宙に舞う。
まるで和西の次の手を楽しんでいるようなそぶりすら見せた。
だが、焼印を押し付けられるような痛みの中で、和西は別のことを考えていた。
健助は・・、東方の剣士を追って行った。『ここで待っていてくれ』って言って。
積山くんは・・、黒畑さんとカリストの前から姿を消した。
浩司や仁や・・、谷川さんは今頃どうしてるだろう・・。元気かな。怒ってるだろうな・・。
二ノ宮さん・・、とても辛いだろうと思う。僕だって涙をこらえるのが精一杯だ・・。
彩華ちゃん・・、助けてあげられなくてごめん・・。
将一・・、僕は大丈夫だ。 そこで見てろよ・・!
黒畑さん・・、僕・・、
戦うよ。
「うぉおおお!!!」
雄叫びを上げ、和西はコートから出したプログラムカードをデジヴァイスに叩き込んだ。
「ゴマモン進化!!!」
凄まじい水流が和西とゴマモンの足元から湧き上がり、瞬く間に巨大な水柱を形成する。
水の中でそっと和西は眼を閉じる。
『勝算は?』
「 あるよ 」
水が消えた。
「 ネプトゥーンモン 」
「はぁあぁあああああ!!!!」
降流杖を振り下ろし、ネプトゥーンモンが叫んだ。
「お前だけは許さない!! デュナスモン!!!!」
「甘い。 甘い甘い甘い甘い甘いッ!!!」
デュナスモンが形勢を逆転させ、ネプトゥーンモンに覆いかぶさった。
「そんな攻撃が効くとでも思っているのかデジモンテイマーァ!!!!」
デュナスモンの両手の手のひらから凄まじいエネルギーが放出され、ネプトゥーンモンの体を襲う。
鎧が少しずつ溶けていくのを感じながらも和西は目の前のデュナスモンを見据え続けた。
「私の戦う気があるのか!!? お前はなんのために戦っている!?」
「分からない」
「話にもならんな・・・! 消えろ!!」
デュナスモンは本気だった。
デジモンテイマーを直接手にかけることが出来る。
ロードナイトモンのようなヘマは絶対に踏まない。
死ぬのは・・・、こいつだけだ。
「 分からないんだ・・ 」
デュナスモンは驚き、両腕から放たれるエネルギーの波動の中に眼を凝らした。
消滅せず、ネプトゥーンモンはまだ、そこに存在していた。
「 僕はなんで自分が戦うのか知りたくてここに来たんだ 」
ネプトゥーンモンの槍がデュナスモンをつらぬく。
賢者の塔から戻り、ドラゴンズバレーで修行を続ける嶋川・アグモン、辻鷹・ガブモン。
メタルガルルモンはガイオウモンに何度も突撃し、右手の爪を振りかざした。
ガイオウモンは僅かな動きでそれを避け、返す手でその背を叩く。
攻撃を受けて炎上したテントを吹き飛ばし、デュークモンがデクスドルグレモンに斬りかかる。
そして、その後から黒畑が、二ノ宮が姿を現した。
赤く充血した眼から涙は流れていない。
「ファンビーモン進化!!!」
二ノ宮が鋼鉄の壁に、黒畑が岩石の柱に包まれた。
林未蓮、桜華、コテモンは森を進んでいた。
早く和西達に合流するために。
その背後に闇に覆われた小さなゲートが開いたことに3人は気づかなかった。
ウィルドエンジェモン=“ハニエル”の台座に膝をつき、積山は眼下に広がる広大な機械都市を見つめた。
中央の巨大な門が開き、次々とデクスドルグレモンが飛び立った。
「大きな相手ですね」
警告を無視してその場に留まるハニエルを狙い、無数の砲台が向けられた。
「『聖人の楽園=セイント・エデン』」
究極体に進化した裁が翼を広げ、胸の前で手を組んだ。
光のカーテンがハニエルを包み込む。近づく弾丸・攻撃すべてが無力と化し、消え去った。
積山はデジヴァイスを開き、ポーチからプログラムカードを取り出した。
「根源を叩き潰します」
デジタルワールドに突入してやがて2ヶ月。
生き残ったのは『水の大賢人』他、
・・・・・・8名。
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