エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 36    Episode...36 [すれ違う意思]
更新日時:
2008.09.18 Thu.
建造物が次々と爆発し、炎上する。
轟音が地面を揺さぶり、黒煙が視界を遮り、灼熱の爆風が空の嘗めた。
厚い雲の向こう側からかすかに射す昼の日の光が、メタルエンパイアから放たれる粒子砲の光に打ち消される。
放たれた粒子砲を追うように何十体ものギガドラモン・メガドラモン・デクスドルグレモンが次々と開く門から飛び立つ。
まるで黒い雲のようなその群れに、正面から一体の騎士・カオスデュークモンが向き合った。
漆黒の一対の翼で宙に静止し、平然と槍を構える。
対するギガドラモン・メガドラモンが一斉に両腕からミサイルを撃ち出した。
 
核弾頭一発分にも匹敵するエネルギー。
 
しかしミサイルは次々とカオスデュークモンの周囲に吸い込まれ、消滅した。
“ハニエル”の技、[聖人の楽園=セイント・エデン]の効果が引き継がれていた。
[聖人の楽園=セイント・エデン]が発動している間、完全体はおろか究極体の渾身の一撃すら、彼の鎧に触れることすらできない。
ゆっくりと槍を天に突き上げたカオスデュークモンは背の両翼を宙に叩きつけた。
 
羽毛が舞い散り、その中にカオスデュークモンの姿はない。
 
次の瞬間にはギガドラモン・メガドラモン・デクスドルグレモンの大群の中心に姿を現す。
 
「ここで時間を費やしている場合ではない」
そう呟き、カオスデュークモンの右腕が、魔槍がゆっくりと下ろされる。
同時にそれまで耳を引き裂くような声で威嚇を続けていたギガドラモンらの大群が沈黙した。
次の瞬間、メタルエンパイアの上空で赤い光が交錯する。
「[ノーブルアトロシティ]」
“高潔なる惨劇”と呼ばれたその技は一瞬にして数十体にも及ぶ完全体をねじ伏せ、切り裂き、翼を奪い、抹消した。
 
 
黙って『魔槍バルムンク』を横に振り、カオスデュークモンは空中に再び静止した。
積山の推測はどうやら当たっていたようだ。
ギガドラモン・・・、
かつてアンノウンとの戦いで何体もドームから出現したデジモンだ。
同じくメガドラモンも。
恐らくは・・・ギガシードラモンもこのメタルエンパイアから現実世界に送り込まれたデジモンだろう。
 
そしてデクスドルグレモン。
このデジモンが群れに混じっている事は積山の予想外だった。
リアルワールドで暴れているデクスドルグレモンの出所もここだった、ということになる。
さらに・・・、
 
カオスデュークモンは自分に向かって飛んでくる新たなデジモンの群れを見下ろした。
ギガドラモン、メガドラモン、デクスドルグレモン・・・。
そして“ネオデビモン”。
それらは圧倒的な物量差でカオスデュークモンに迫る。
「どういうことだ・・。なぜネオデビモンがこんなにメタルエンパイアにいる・・?」
槍を横に構え、カオスデュークモンは自分の内側に話しかけた。
 
「 裁、もう心配はいらない。 」
 
ネオデビモンまでもメタルエンパイアで生み出されたデジモンだとすると・・・。
積山は自分達が乗り越えてきた戦いそのものにはじめて、はっきりとした違和感を感じた。
「この“戦い”はおかしい・・・」
そう呟き、カオスデュークモンは振り向いた。
マントが身体の回転にすこし遅れてひるがえる。
 
和西のように、“戦いそのものの意義について”苦悩する仲間は多い。
だが、自分の戦う理由について知りたがっている。
背後を覗うと百はゆうに超える数のネオデビモン、デクスドルグレモン、メガドラモン、ギガドラモンの大群が一斉に迫るのが見えた。
それらには興味なさげに視線を正面に戻し、カオスデュークモンは槍を一度振った。
ランスを形成するビームの刃が伸びた。
積山は確信していた。
このメタルエンパイアにはそれがある。
自分達の戦いはなにか、という問を解く“鍵”が。
 
 
 
森をすこし早足で進んでいた林未姉弟はどちらもうんざりした表情だった。
後ろを号泣するカラテンモンがついてくるからだ。
「ねぇ、コテモン? そろそろ泣くのやめてもらえる?」
宙をあおるように見回しながら、桜華は身体ごとくるりと振り向き、カラテンモンに向き直る。
カラテンモンは再三に渡って顔の涙を腕で拭い、言った。
「でも本当によかった・・・。桜華殿が生きておられて本当によかった・・・」
それを聞いて桜華もほっとしたような微笑みを見せた。
しかし、次に続いた台詞を聞いて表情がすこし変わる。
「しばらく見ないうちに美しくなられました・・・」
「こらこらこらこら・・・・」
半分あきれ口調で言った彼女だったが、頬を赤らめたのを蓮は見逃さなかった。
弟の視線に気づいた桜華は恥ずかしそうに、先に進む。
後を追いかけて再び横に並んだ蓮はなにか話すことは無いかと考えた。
 
正直、舞い上がっているのは、認めざるを得ない。
それを表に出さないようにするのが精一杯なほどだった。
うれしかった。
母親がいなくなった時にいつもそばにいてくれた姉が生きていたのだから。
上手く舌が回らなかった。
それに・・・、
背中に流れる黒に近い深い緑の髪は記憶のそれよりも油気がまったくなく、艶があった。
容姿も二ノ宮のようで、結果として気おくれし、すこし話しかけづらい。
 
やがて蓮は話す内容を思い出し、口を開いた。
「しばらく見ないうちに・・・、といえば。こっちに来てからどうしてたんだ?」
「そうね・・、ここからかなり離れた所だけど・・・、『ドラゴンズバレー』っていう大きな谷を見張らされていたわ。何でもイグドラシルが警戒してたんですって」
「『ドラゴンズバレー』・・・か」
聞いたことが無い。
「イグドラシルは何か考えてるみたいね・・・。何か・・・、とんでもないことを考えてる気がする・・。ロイヤルナイツの中でも対立が多かったわ」
「姉さんみたいに離脱する騎士が目立つくらいだしな」
急に桜華が口をつぐみ、すこしさびしそうな表情を見せた。
「話し方・・・、大人っぽくなったね。服も“お兄さん”って感じだし」
「・・・そうか・・な」
我ながら最後の“な”が付け足し感十分だった。
「そんなことない・・・、?」
言いかけた蓮は桜華の仕草を見て途中で言葉を切った。
唇に人差し指を当てている。
右手は刀の柄に触れており、緑色の眼が注意深く森の中を見渡す。
 
突然、蓮は背に寒気を、強い悪感を感じた。
戦慄が背筋を伝って全身を震う。
「・・・・ッ!!?」
「“健助”! 伏せなさい!!」
刀を抜いて振り向いた蓮の背中に桜華の叫び声が聞こえた。
とっさにしゃがんだ蓮の上を桜華が飛び越え、一閃、そこにあった木をなぎ倒した。
腕で輪を作ったくらいある太さの木が凄まじい悲鳴のような音をたて、倒れる。
 
その向こうに闇のゲートがあった。大きさは比較的小さく、ちょうどカーブミラーほど。
斬撃にすこしも変化を見せず、ゆっくりと桜華に近づく。
「止まれ!! 何者だ!!?」
ゲートは止まる事も名乗る事もなくすこしずつ桜花に近づいていく。
刀を構える桜華の直前で、やっとゲートは止まり、そして口を利いた。
 
「・・・そノ・・光を・・・よ・・・こせ・・・ぇぇえ・・ぇええ・・!!!!」
 
ゲートから黒い腕が伸び、桜花の身体を掴んだ。
ほぼ同時に桜華が突き立てた刀は紙を裂くような手ごたえこそあったものの、その黒い腕に反応はない。
「放せ!!」
カラテンモンの剣が真横から腕に振り下ろされ、腕を叩き斬った。
すくなくとも3人にはそう見えた。
しかし腕は切れておらず、締め付ける力も健在だ。
腹を凄まじい力で握り潰され、さすがに桜華も呼吸が細くなっていくのを感じた。
一方、蓮はゲート本体に刀を振り下ろした。
こちらには手ごたえすらない。
悪態をついた蓮は同時にあることに気づき、桜華に叫んだ。
「狙いはプロトコルだ!!」
イオやカリスト達は4人とも、身体のどこかに“プロトコル”という金属の装飾のようなものを身につけていた。
桜華が上着の押さえ代わりに腹部に巻いていたのも、プロトコルだ。
つまり、『聖騎士に変化させるプログラム』がこいつの言う“光”ということだ。
 
それを聞いた瞬間、一瞬で桜華は刀を逆手に握りなおし、腰の後ろ、上着と帯の間に滑り込ませた。
プロトコルごと帯を切り離した瞬間、黒い腕が桜華から逃げるように離れる。
急に開放された桜華は上着の前を押さえて立ち上がり、刀を向けた。
しかし、すでに闇のゲートは見えなかった。
「姉さん・・、よかったのか? プロトコルを奪われて」
「あのまま殺されるわけにはいかないもの。私はもうロイヤルナイツじゃない」
腕に巻いていた布をはずし、帯の代わりに腰に巻いた桜華は一度振り返って言った。
「それに・・、もう2度と“蓮”の前から消えるわけにはいかない」
「分かったよ」
蓮は頷き、刀を鞘に戻した。
同じく刀を鞘に戻し、カラテンモンは訊いた。
「それよりも、あれはいったい・・なんだったと思う?」
「さっぱり」
「分からん」
ほぼ同時に二人が答えた。
「イグドラシル派では・・、ないな」
「そうかしら?」
蓮が思いついた仮定を口にしたが、意外なことに桜華はそれを否定した。
 
「イグドラシルならやりかねないわ。配下を襲うくらい」
 
 
 


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