一方、ネプトゥーンモン達は戦闘を続けていた。
槍に刺さった状態で硬直したデュナスモンを油断なくネプトゥーンモンが見上げる。
すぐに消滅はしなかった。
まだ消滅しない。
ネプトゥーンモンがさらに気を引締めたときだった。
「・・・ク・・、ククク・・・」
突然デュナスモンの身体が動き、突然槍を掴んだ。
「!! お前・・!まだ!!」
ネプトゥーンモンは槍を横に薙いでデュナスモンを投げ飛ばした。
デュナスモンは翼を広げると、岩だらけの荒れた地面に激突する寸前、体勢を立て直し膝をつく。
「この程度で私が倒れるとでも思ったのか・・!!?『水の大賢人』・・!!」
ネプトゥーンモンの中から、デュナスモンの腹部を見ていたゴマモンが目を見張った。
『キズが・・・、治ってるな』
「ああ、どういうことだろう・・」
そう呟いたネプトゥーンモンの至近距離にデュナスモンが瞬間移動した。
「 そう、不思議だろう 」
ほぼ同時にデュナスモンとネプトゥーンモンの真横にミネルヴァモンが躍り出る。
「[オリンピア]!!」
「甘いッ!!」
ミネルヴァモンの身長を越える大剣を、驚いたことにデュナスモンは素手で受け止めて見せた。
「ううっ・・・!!」
行く場を無くした衝撃が全身を打ち震わせ、ミネルヴァモンは危うく気絶する寸前で正気を保つ。
デュナスモンが自分から眼を離した瞬間、ネプトゥーンモンが攻撃を加えた。
しかし、すでにデュナスモンは攻撃を予測し、顎で周囲を飛び回っていたデクスドルグレモンを3体、呼び寄せた。
腕が食いちぎられる寸前で攻撃を取りやめ、ミネルヴァモンも身を退く。
横に並んだミネルヴァモンにちらりと眼をやり、ネプトゥーンモンが呟いた。
「 手は出すなって言っただろう? 」
「 出ちゃったもの、しょうがないわ 」
ネプトゥーンモンの右手の甲、ミネルヴァモンの右手の甲が光った。
二人の紋様がそれぞれ、蒼と金色の光に包まれている。
ネプトゥーンモンは手早く周囲を見渡した。
全員が完全体の群れと戦っている。
次々に襲い掛かるデジモン達は空から途切れることなく降りかかってきていた。
ネプトゥーンモンは眼を閉じ、すこしうつむいた。
「ミネルヴァモン、僕たちはここで戦ってる場合じゃない」
右手に握られた槍が地面を軽く叩く。
と、叩かれた地面から水が湧き上がった。
「 『大地より・・・、生命の泉を召喚せよ』 」
キッとデュナスモンを睨みつけ、ネプトゥーンモンは振り上げた槍の穂先を向けた。
「 くらえ!!!」
ほぼ同時にミネルヴァモンは腰の後ろから逆手に『龍脈剣』を抜く。
「同感ね・・・! こんなヤツ一体に時間をとられてる場合じゃない!!!」
身体をその場で回転させ勢いをつけ、満身の力をこめて大地に短剣を突き立てた。
デュナスモンは謎の行動をとりはじめた2体を余裕の笑みを浮かべて見下ろしていた。
しかし次の瞬間、周囲の大地からかき集められた水分が巨大な豪流となってデュナスモンを飲み込む。
それを眼で確認し、ネプトゥーンモンは両腕を掲げた。
水流はそれにあわせるように捻り上がり、球状になって中のデュナスモンを襲った。
一瞬反応が遅れたデュナスモンは猛烈な流れに飲み込まれる。
鎧が凄まじい水圧に悲鳴をあげ、瞬間的に熱を奪った。
「・・・・!!!! そうだ・・・! これでいいィ!!!!! 戦え!!!」
叫び声を上げ、デュナスモンは両腕の手のひらを開いた。
内側に埋め込まれた赤い宝玉が鈍く光る。
その瞬間、今度は水を割り、巨大な一枚岩の剣が四方八方からせりあがる。
「うぉおおおぁあぁぁあぁぁあああああ!!!!!!!」
岩の剣を押さえるデュナスモンは新たな気配を感じて顔を上げた。
「お前はオレよりも前からロイヤルナイツに居たな」
イオ=アルファモンが語りかける。
「お前も誇り高き騎士の一人ではなかったのか? お前は・・・、どこで道から堕ちてしまったんだ・・・・」
デュナスモンは嘲笑を露骨に浮かべた。
「“誇り高き騎士”だと?ガキが・・・、お前のような人間に“騎士の誇り”を語られるまでもない」
アルファモンを睨みつけ、デュナスモンは叫んだ。
「“主君への忠誠”以外になにがある・・!!!!? 穢れた裏切り者どもが!!!」
その瞬間、デュナスモンは消滅した。
『聖剣・グレイダルファー』を提げ、アルファモンは呟く。
「勘違いするな」
顔を上げたネプトゥーンモンとミネルヴァモンに、イオは言った。
「両腕を消してやった。・・カリストを踏みつけた報いを受けさせただけだ」
アルファモンはすぐに背を向け、『グレイダルファー』を軽く握りなおす。
「なにをしている・・? まだ相手はいるぞ!!」
「ああ・・・、分かってるさ。仲間を守るためだ・・、何体だって倒すよ」
ネプトゥーンモンはアルファモンの前を横切る瞬間、小さな声でアルファモンに言った。
「君は誇り高い騎士だ」
和西は前を見据えた。
仲間は全員、持ちこたえている。
そして、まだたくさん、敵がいた。
もう戦うことに対する迷いは振り切ったつもりだった。
しかし、いまだに和西は自分の握る槍の刃から伝わる感覚に慣れることが出来なかった。
リアルワールド・組織本部
あわただしい様子が見て取れる。
その中に、背中に紋様が無い以外は和西達と同じコートを羽織った者も数人混ざっていた。
非人工的なデジモンテイマーのうち、組織に正式に入隊して戦うテイマーに支給されたものだった。
常に前線で戦うという意味を持っているそのコートを着ていたテイマーのうち一人は名月だった。
疲れた様子でイスに腰掛けている。
分けてもらった紅茶には口をつけず、黙ってカップを覗き込んでいた。
「・・神原・・?」
ラブラモンは目の前にやって来た人物の名前を呟いた。
それを聞いて名月は驚いて顔を上げる。
神原拓斗が立っていた。
「ごくろうだったな・・。疲れたろう?」
名月は無言で頷く。
パイプイスを展開し、神原はそのとなりに座った。
「日本のデクスドルグレモンは殲滅が完了した。オレはこのままアメリカに行く」
黙ったまま名月は聞いていた。
世界中に一方通行のゲートが開き、大量のデクスドルグレモンがリアライズしていた。
対抗できるのは組織だけで、軍はなんの効果もあげることが出来ず撤退したらしい。
組織本部がある日本は最初に殲滅が終わり、神原の部隊はアメリカへ行く。
神原はさらに言葉を付け足した。
「積山彩華を連れて帰る。 大統領や総理大臣がなに考えてるかは知らねぇが・・、少なくともオレはそのためだけにアメリカへ行く」
名月も積山彩華のことは聞いていた。
アメリカのとある大病院の意藤という人物の病室で発見されたらしい。
意藤のすぐ横で眠っているようだったそうだ・・・。
クダモンの姿はどこにもなかったという。
神原は名月を見て、言った。
「お前も来るか? ・・・いや、質問の意味はない、な」
そう言って神原は立ち上がった。
「お前はある“木”を守りたい一心で組織にまで入ったと聞いた」
去り際に神原は再度振り返り、名月とラブラモンに言った。
「 それがお前が戦った理由だったんだな 」
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