崩壊したメタルエンパイアにカオスデュークモンは降り立った。
迎撃に出たデジモン達は壊滅。
一番最初に全滅したのはネオデビモンだった。
メタルエンパイア自体に装備されたミサイルなどの迎撃システムは全て破壊された。
メタルエンパイアの荒れ果てた広大な敷地を積山、ギル、裁が歩いていく。
彼らが向かっているのはメタルエンパイア中央のタワー群だ。
カオスデュークモンの状態の時に観察していた。
他のデジモン達が様々な出口から出てきたのに対し、デクスドルグレモンだけは中央の大きなゲートから迎撃してきていた。
やがて積山の足がゲートのあるタワーへの大きな階段に差し掛かる。
「まて、オレが行く」
ギルが積山を止め、先立った。
横に長い階段の先には巨大な鋼鉄の門が立ちふさがっていた。
これが開いたとき、攻撃される可能性もある。
究極体に単独で進化したギルが槍をかまえ、背後を振り返った。
剣の柄に手をかけたウィルドエンジェモンの翼の後ろで積山が静かに頷いた。
カオスデュークモンは鋭く息を吐き、少し吸って止めた。
「[ジークセイバー]!!」
鋼鉄の扉にエネルギーの槍が突き刺さった。
扉が見る間に熱を持ち、赤い光を持ち始めた。
全員が身構える。
高熱の蒸気を上げて崩れ落ちた扉の向こうは恐ろしいほどに静かで、襲い掛かるものもなかった。
内部は室内だというのに外と同じように煤汚れていた。
曲面が目立つ室内はあちこちがへこみ、穴も多い。
その穴の一つを覗き込んだギルは底が見えないくらい穴が深いことを知り、身震いした。
「・・ったく、気味が悪いぜ・・」
エレベーターらしきものもあったが、壊れていた。
仕方なく階段で下に下りる。
そこは一本の巨大な廊下だった。
デクスドルグレモンが4、5体は通れるだろう。
奥に進むと、廊下は途中からなくなっていた。
ちょうど“ジョウゴ”のような形になっていたその廊下は巨大な棚の群れが並ぶ広大な地下室に続いていた。
一度では見渡せず、向かい側の壁はかすんで見えない。
天井から差し込む光だけが視界を保たせていた。
「工場、のようですね。まるで・・」
積山は口元に手をやって思案した。
―ここでデクスドルグレモンを“製造”していたのか・・。
だとしたら、この施設も完全に破壊するべきかもしれない。
ギルは積山にある提案をした。
「タワーの方を見に行こう。なにか資料があるかもしれないしな」
積山は頷いて、ギル、裁の後に続いた。
眼を焼くような夕日を横目に眺めながら、積山たちは階段を上がっていった。
タワーの内部、室内にはなにもない。
部屋は1フロアにつき一部屋しかないようだ。
とうとう最上階まで来た積山たちは、山のようにつまれたディスクケースの山に圧倒された。
「・・・なんだ、これ」
「ディスクケースですね」
「・・・・んなこた分かってる」
ギルはため息をつくとそのケースの間を縫うように奥へと進んだ。
積山たちがディスクケースの山の奥で見たものは意外なものだった。
ギルは息を呑み、ウィルドエンジェモンは仮面の奥の表情を険しくして剣をゆっくりと抜く。
積山ですら驚きを隠せない様子だった。
「あなたは・・・?!」
彼らの正面には異形の光景が広がっていた。
窓から差し込む赤い日光がそれをまるで浮き上がらせるように照らし出す。
一人の男性が空中に浮いていた。
白髪が高い割合の髪からもその男性が壮年をすこし過ぎていることが感じられる。
汚れた古いスーツはボタンが全て留められてあり、ネクタイも首もとまで上げられていた。
朽ちたような外見ときちんとしめられたネクタイとが不可解な違和感を生み出している。
顔にかけられたメガネの片方にはレンズがはまっていなかった。
男はかすれるような声で何か喋った。
「だ・・、れだ・・? ・・・そう か。 おまえ、 その眼、 その・・髪・・」
「あなたは誰です? 何故こんなところで?」
冷静な口調で積山が訊いた。
「・・『闇、 のォ・・・、守護帝』、かぁ・・・ぁあぁ!?」
男の目だけが動きまわり、積山を観察し始めた。
「『闇の守護帝』・積山慎です。 ・・有川さんにとある人の写真を見せていただいたことがあります」
積山は一歩進み出てた。
スーツと太陽の色が交じり合う赤黒い男と、白いシャツの上にダークグレイのコートを肩にはおった積山との色の対比がディスクの山の前で浮き上がる。
「“組織の初代総司令官”、元はとある大学で教授の地位にあった男性。 あなたがその江原さんですね?」
積山のこの言葉を耳にした瞬間、宙に浮いていた男の体が地面に落ちた。
時を同じくして男・江原の表情が豹変し、凄まじい怒号のような咆哮を上げる。
「うぉおおおおおぁぁあぁああああアアああアアあアアアアあああ!!!!!!!!!」
積山の足元まで這いよった江原は叫んだ。
「そうか!! 貴様ァ・・!! 積山雄介の息子か!!? あの黒髪のガキか・・!!?」
大切なパートナーに危害が加えられそうな状況に、とっさに間に入ったウィルドエンジェモンのブーツを江原が掴む。
「お前もだ! 見覚えがあるぞ・・・!この脳に刻み付けられとる!この生意気な小娘の傲慢顔は!!」
「その手を離しなさい!」
積山の声に同調するようにギルが江原に襲い掛かり、ウィルドエンジェモンから渾身の力で引き剥がした。
ウィルドエンジェモンを背後にかくまい積山が冷たい視線を江原に向ける。
「彼女のことを知っているんですか」
ディスクの壁に体を打ち付けた江原はまるで人間ではないかのような動きで身を起こした。
「ああ知っているとも!! その娘め、かつては『ホーリーガーデルン』という天使系デジモンの街をまとめていたんだ。せっかく“神”のために働けるというのにお前はこう言ったな。『そのような行為を私は許しません』だと」
立ち上がった江原はディスクの山を蹴り飛ばした。
凄まじい音と埃を上げてそれは崩れ、“ネオデビモンの出来損ない”が姿を現す。
「だからこうしてやったんだよ!!従わないなら従わせる。それが私の流儀でね!!」
「『ホーリーガーデルン』の住民全てをネオデビモンに改造したんですか・・・!?」
積山が静かに呟いた。
低く、強く、厳しく、険しい口調だった。
彼の声を聞きながら、ギルはかなり前の戦いを思い出していた。
かつてネオデビモンとの戦いで、倒したネオデビモンは最期に呟いていた。
『あ・・・・リッ・・・がと・・・・う・・・』
『もう・・、ツ、 かれ、た・・・』
『ごめッ・・、ん・・、ぐッ・・ぁああ・・・』
気がつけば、ギルは自分が手を握り締めていたことに気づいた。
|