江原は積山を見上げ、笑う。
「“最強の戦士による軍を造る”。 私の夢を実現させるのに・・・あまりにもお粗末な奴らだったな。ネオデビモンどもは。 辛うじて残っていた者も『闇の守護帝』、お前が全て壊してしまった」
その瞬間、積山が江原に掴みかかる。
表情は冷静そのものだったが、その眼は怒りの光をたたえていた。
「その口を一度閉じなさい・・! “最強の軍を造る”と言いましたね?・・・答えなさい」
積山は江原の目をメガネを間に凝視する。
「二ノ宮さんや神原さん・・。彼らや、組織のテイマー部隊。 あれらは全てあなたの“最強の軍”の実現の一環だったのですか?!」
「そのとおりだ。 ・・神原拓斗、二ノ宮涼美。 2個ともまだ生きているか? 散々薬漬けにしたにもかかわらずいつまでも泣き叫んでいたな」
「黙れ!!!」
そう叫んだギル以外の全員が驚いてギルを見た。
「もうたくさんだ・・。 江原、とかいったな。 あんた、一体命を何だと思ってるんだ」
「そんな質問の答えを聞いてどうする? お前たちが私の計画に反対なら、止めてみろ。もっとも、もう手遅れだがな」
それを聞いた積山は驚いて江原を押さえつけた。
「手遅れだと? どういう意味だ!?」
江原は力なく体を横たわらせ、かすれた声で呟くように言った。
「言った・・は・・ず・・・だ・・。 もう・・遅・・・・・・・・い」
眼を見開いた積山は自分のとなりに裁が立つ気配を感じ、顔を上げた。
裁が胸の前で『手話』を使って何か話そうとしているのに気づき、積山はそれをそのまま江原に伝える。
「『わたしはホーリーガーデルンに居たときのことを覚えていません。あなたがわたしの友を無残な姿に造りかえた事も。でも一つ言えることがあります』」
積山は手話を終え、自分の腕の中で静かに涙を流すウィルドエンジェモンを抱きしめて、続きを口に出した
「『彼らの魂が全て開放された今、わたしは・・・、あなたを・・・、咎めようとも、憎もうとも、懲らしめようとも、思っていない。ということです』」
体を構成していたデータが崩れ、消滅していった江原へと、積山は彼女の思いを伝えた。
その直後地面が揺れ、メタルエンパイアの全ての射出ゲートの鋼鉄の扉がまるで木の葉のように宙を舞った。
たくさんの口を開いたメタルエンパイアから大量のデジモンがほとばしる。
それらすべてがデクスドルグレモンだった。
そして、一際大きな体のデジモンが群れに紛れて全体の5割ほどの数が空へと飛翔する。
デクスドルゴラモン。
江原の研究は『人工的な究極体デジモンの増殖』までも成功させていた。
無数の翼が起こす風が積山たちの居るタワーにも吹き込む。
つまれたディスクのケースが崩れ、差し込む日の光に巻き上げられた埃が次々と浮かび上がる。
大空へ向けて飛び立とうとしていたデクスドルグレモン、デクスドルゴラモンの群れの目前に金色に輝く薄布のようなものが広げられた。
それは完全にメタルエンパイアそのものを覆いつくし、群れを完全に閉じ込めた。
「 [聖人の楽園=セイント・エデン] 」
メタルエンパイアから飛び立とうとする敵すべてを閉じ込めたウィルドエンジェモン=ハニエルは、天に掲げていた右腕を静かに下ろし、ギルの隣に立った。
2体のパートナーを背に、積山は目の前の無数の敵を見つめた。
「ギル、裁、 私たちの、私たち『十闘神』の戦いの理由が・・・、今回聞いた話だけだとは・・・。そうは私は考えていない・・」
ギル、ハニエルがそろって頷く。
積山はややあってから続けた。
「それでも私はこう思う。私たち3人の戦いの原因は・・・、今回聞いた話がそうだった、と」
ウィルドエンジェモンは自分でも気づかないうちに涙を流していたことに気づいた。
『ホーリーガーデルン』という土地の名前も覚えていない。そこに住んでいた自分の友達のことも覚えていない。
だが、それらが今では失われてしまっている、ということだけは知っていた。
積山は裁が泣いていることに気づいて彼女をそっと抱きしめた。
「このエリアを消そう。 全て。 ここで行なわれた行為の結果生まれた彼らも。 そしたら、私はみんなを探して合流する。 体のこと、残された時間がもう少ないことを、全てを打ち明けるつもりだ」
赤いビームの刃がタワーを真っ二つに斬り裂いた。
メタルエンパイアと外界とを隔てる[セイント・エデン]は技を使用した本人が自分で解除しないかぎり消えることは無い。
並みの究極体を凌駕するデクスドルゴラモン、そしてデクスドルグレモンの大群。
無謀なことは分かりきっていた。
それでもカオスデュークモンは一対の巨大な翼を広げ、槍を手に静止する。
次の瞬間、再三に渡って閉じ込められたデジモン達の破壊衝動がすべて、カオスデュークモンに向けられた。
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