エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 41    Episode...41 [戦歴の証明] 
更新日時:
2008.11.23 Sun.
―結局一晩、寝ずに過ごしたみたいだ・・。
和西はすこしずつ白みはじめた地平線を見つめながら、とっくに空のカップを砂に覆われた地面に置いた。
 
不意に違和感を感じて和西は無意識に振り向く。
「・・・?」
地響きがしたような気がした。
ピクリとも動かない荒地が延々と続くだけの風景が変わらず続く。
和西は知るすべもなかった。
 
積山たちが死闘に身を投じたことを。
 
「気のせい、か」
―積山くんやギル、裁さんが行方をくらましてもう何日にもなる。体のことは口止めされていたけれど、新藤先生の話が本当ならもう、時間がない・・・。
気がかりなことはまだあった。
浩司やアグモン、仁とガブモン、 谷川さんとホークモンのことも気がかりだ。
 
「おーい、隊長! ちょい!」
「・・!? なに? っていうか隊長?!」
柳田は和西の服の袖を乱暴に引っ張る。
「えーから! 大将がきれーなねーちゃん連れて帰って来たで!!」
一応“隊長”と“大将”は話の流れで大体分かった。
ずっと待っていたから。
林未が『東方の剣士』を追って以来、和西は他の意見を一切押しのけてその場に残るよう言い張った。
もちろん異論がある者もいなかったが。
気になるのは“きれーなねーちゃん”だ。
・・誰?
 
 
ドラゴンズバレーを挟み込む絶壁の頂にまだ日が昇らないうちに、嶋川とアグモンはディノヒューモンに起こされた。
「嶋川様、ヴィクトリーグレイモン様がお呼びです」
「・・・、はぁ?」
体を起こした嶋川はログハウス調の室内にいくつかある窓の外を睨んだ。
「まだ夜じゃねーか」
アグモンは起きる気がないらしく、早くも二度寝の体勢をとりつつあった。
それを見たディノヒューモンは慌ててアグモンをゆすり起こす。
「こ、困ります!」
「アグモン、あきらめて起きろ。今更早起きでグダグダ言うんじゃねぇ・・」
嶋川は大きくあくびをすると体にかけていた布を脇にどけた。
一ヶ月のほとんど実戦としか言いようのない訓練で全身鍛えあがっている。
それに、アグモン同様いくつか生傷が目立った。
彼はそれについては気にしていないらしく、新しいシャツを着て、その上に黒のTシャツを着た。
「さて・・、行くか。朝っぱらから訓練かよ」
ベット脇に立てかけてあった炎撃刃を腰の後ろ、ベルトに引っ掛けた。
最後に右腕のデジヴァイスを確認する。
「アグモン、もたもたすんな」
「へっ、お前が言うかね。着替えなんざ面倒だろうに」
アグモンの冗談にすこし笑い、2人は丸太と材木で組まれた宿舎を後にした。
入り口のところで辻鷹とガブモンに鉢合わせした。
「お前も呼び出しか?」
「うん、まあね。 2人も?」
辻鷹も一ヶ月の間に外見的に変化が現れている・・、ように見える。
顔つきがどこか精悍に、なったように見え、体格もすこし引き締まっていた。
4人に共通して言えるのは、新しい怪我がひとつもないことだった。
挨拶もそこそこにディノヒューモンが先立って小道を歩く。
ドラゴンズバレー中央の高い山へ向かっていた。
錆びだらけの今にも崩壊しそうなエレベーターを乗り継ぎ、カーネルフレイムプレイスと呼ばれるババモンの屋敷へと向かった。
 
2メートル四方はある巨大な屋敷の玄関扉の前で、2体のデジモンが腕を組んで待っていた。
 
「おはよ。よく眠れたんな?」
「あと2時間くらい寝ていられれば“よく眠れた”、とも言えたかもな」
嶋川とアグモンが不機嫌そうにヴィクトリーグレイモンを睨む。
「すこし時間がかかりすぎだ」
「すいません、次はがんばります」
辻鷹とガブモンは正面からガイオウモンを見据える。
 
「さぁーて・・、さて・・」
ヴィクトリーグレイモンはおもむろに地面に突き刺してあった愛用の両手剣を引き抜き、かまえた。
ガイオウモンは両腰の愛刀“菊燐”の柄に両手をかけた。
「卒業試験だ。 オレらに『まいった』と言わせろ」
本気のヴィクトリーグレイモンを目の前にして、辻鷹はすこし驚いた。
「どういう・・、こと?」
「そーいうことだろ」
戸惑う辻鷹をよそに嶋川は早くも炎撃刃を逆手に持って、デジヴァイスにプログラムカードを叩き込んでいた。
 
一瞬で火柱が嶋川とアグモンを包み込み、それを吹き飛ばしてウォーグレイモンがヴィクトリーグレイモンに襲い掛かる。
「卒業試験、だったな!?」
「そーだよ。かかってきな。 オレの一番弟子!!」
ヴィクトリーグレイモンは右手の一振りでウォーグレイモンの一撃をウォーグレイモンごと猛然と突き放した。
凄まじい力で突き飛ばされ、山の表面から弾き飛ばされた。
落下する一方のウォーグレイモンをヴィクトリーグレイモンが追って数十メートルの断崖絶壁を躊躇なく飛び降りる。
 
ガイオウモンは呆然とウォーグレイモン、ヴィクトリーグレイモンの戦闘を見つめる辻鷹とガブモンに一瞬で詰め寄った。
「[燐火斬]!!!」
完全に辻鷹を叩き切るつもりの一撃だった。
そのはずだった。
2振りの“菊燐”は巨大な氷に阻まれて衝撃に刀身が震えていた。
ガイオウモンは自分の予想が当たっていたことを認識し、めったに見せない微笑を浮かべた。
 
―こいつが本当に選ばれた者なら、“イグドラシルという神を倒す存在だとすれば、”私ごときが倒せる相手ではない。
 
「ガイオウモン」
氷の中から辻鷹の声が響いて聞こえた。
「ガイオウモン、これに勝てば、あなたに『まいった』、と言わせれば、卒業なんですね?」
ガイオウモンは静かにうなずいた。
「そのとおりだ」
氷の中で光が反射し、再び声が響く。 その声は、こう言った。
「よろしくお願いします、先生」
メタルガルルモンの全身のブースターが最大出力で稼動する。
全身に武者震いを感じ、ガイオウモンは再び微笑んだ。
こんな手合わせは、こんなにも充実した、これほどまでに見事な手合わせは生涯でもう二度とないだろう。
―ガイオウモン、一世一代の大勝負だ。
「簡単には言わんぞ・・。『まいった』などと、な」


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