猛スピードで落下するヴィクトリーグレイモンは、大剣を地面へと向け、すでに着地したウォーグレイモンを正面から見据える。
風が轟々とした音をたてて聴覚を支配したが、ヴィクトリーグレイモンはウォーグレイモンが剣を握りなおすかすかな音を聞き逃さなかった。
― 来るな。 こりゃ。
予想通り、ウォーグレイモンはヴィクトリーグレイモンに向かって迎撃に出た。
炎撃刃が凄まじい速さで振りかぶる。
ウォーグレイモンの一撃が直撃する寸前、ヴィクトリーグレイモンは素早く身をひるがえし、流れるような動きで剣をウォーグレイモンの体めがけてたたきつけた。
しかし、ヴィクトリーグレイモンの攻撃は空振りに終わる。
とっさに背中のブースターを発動させ、宙返りをする形でウォーグレイモンはヴィクトリーグレイモンの真上をとった。
「『ブースターに頼りすぎるな』だったか」
嶋川の目が、アグモンの目が、ウォーグレイモンの眼がヴィクトリーグレイモンを見つめた。
ウォーグレイモンの大剣がヴィクトリーグレイモンに直撃した。
ヴィクトリーグレイモンの足元の地面が数メートル陥没し、ウォーグレイモンがさらにヴィクトリーグレイモンを地面に踏みつけた。
「おおおおおおぁああああああ!!!!」
ヴィクトリーグレイモンの全身を覆う鎧が軋み、ヒビを生み、穿ち、潰した。
普段閉じられていた二体のグレイモンの口が開き、壮絶な咆哮があげる。
「認めろ!!! オレはこれ以上時間を無駄にする気はないッ!!!」
「この・・・!! 程度で・・・!!! 認められっか!!!」
ヴィクトリーグレイモンは、自分の胸の上に仁王立ちになったウォーグレイモンを渾身の力で蹴り飛ばした。
空中で体勢を立て直したウォーグレイモンは片腕で地面を殴り、再度宙を舞って立ちふさがる。
「感謝はしている。オレは・・、オレたちは強くなれた。 段違いに強くなれた。今なら積山とギルと裁、あの“翼を持ったカオスデュークモン”にも勝てる、そう思えるほどに」
深呼吸をし、ウォーグレイモンは剣をかまえなおした。
「 オレには分かる。あんたはオレが本気で来ない限り、本気であんたを追い込まない限りあんたは絶対に『まいった』とは言わん。ならオレは本気であんたはぶっとばすだけだ 」
できたばかりのクレーターの中で、ヴィクトリーグレイモンはゆっくりと立ち上がる。
「 さぁ来いよ。 本当の戦いを教えてやる 」
ウォーグレイモンは右手に持った炎撃刃を振り回し、頭上に掲げた。
剣に灯った炎から大量の火の粉が飛び散った。
ウォーグレイモンを中心に凄まじい熱波が広がり、高熱に嘗められた木々や草が焼け落ち、炭になっていく。
「 喰らえ・・!! 」
ドラゴンズバレー中央の山のふもとにできたクレーターが爆発した。
ほぼ同時に突如出現した巨大な氷がクレーターの脇の大地に激突する。
氷に囚われたガイオウモンの右手から、へし折られた“菊燐”が大きな音をたてて落ちた。
鎧は半壊し、氷の中に封入されている。
メタルガルルモンはもう一本の“菊燐”を地面に突き立て、磔にされたガイオウモンの額に銃を突きつけた。
「 僕たちの・・、勝ちだね 」
かすかに呼吸を繰り返すガイオウモンは、顔をあげ、メタルガルルモンを正面から見据えた。
「 ・・・まいった・・・。 見事だ。辻鷹、ガブモン 」
爆炎がかすみ、2つの影が姿を現した。
二体のうち一体は崩れ落ちるように倒れた。
ヴィクトリーグレイモンを見下ろし、ウォーグレイモンは剣の炎を消し、腰の鞘に戻した。
うつろだったヴィクトリーグレイモンの目が、すぐに光を取り戻し、いつもの笑顔を見せた。
「 まいったまいった・・・。 降参、降参な・・! 」
太陽が姿を見せる前に決着はついた。
ババモンが見た限りでは、弟子は二人とも重傷だった。
しかし、二人とも形式的に無表情を装っていたが、満足そうな目だけはごまかせなかったようだ。
「嶋川もアグモンも行っちまったんな。 さっびしいねぇ」
「辻鷹とガブモンもだ。 気の早いことだ」
報告を聞いて、ババモンは舌打ちをした。
「なんだい、もう出て行っちまったのかい。 免許皆伝の儀式ぐらい受けていけばいいだろう!?」
ガイオウモンは姿勢を崩し、不敵な笑みを浮かべた。
「一刻も早く行きたかったのでしょう・・!」
「そー、そー。 あいつらあせりすぎ」
のんきな声のヴィクトリーグレイモンを箒で叩いて黙らせ、ババモンは大げさにため息をついて言った。
「騒がしい奴らだよ。 ったく・・。 まぁ、あんなのにデジタルワールドの未来がかかってるわけだね・・」
崖を越え、ウォーグレイモンはメタルガルルモンのほうを向いた。
「おい、お前はどれくらい走り続けられる?」
「2,3日はOKだね」
「上等だ」
ウォーグレイモンは腰の剣をかけなおし、正面の太陽を見つめた。
「和西とか・・、あいつらはどこにいるんだろうな。 さっさと見つけるぞ」
メタルガルルモンは一旦着地して装甲の奥の眼を細めた。
「うん。そうだね。 忘れ物はない? 例のピアスとか」
「うっせーよ、バカ野郎」
「はいはい」
メタルガルルモンはおどけて言うと、先立って進み始めたウォーグレイモンを上から追った。
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