日が昇ってすこしたったころ、ついに林未姉弟とコテモンが姿を現した。
[東方の剣士]と呼ばれる桜華が姿を見せた瞬間、周囲を取り囲む[ブレイブナイツ]所属のナイトモンたちの手に力がこもる。
自分たちを取り囲む剣の柄が握りなおされる音が騒々しく続き、蓮は慌てて声を上げた。
「まってくれ! 話を聞いてくれ!」
「武器をその場に置け!!」
「話を!!」
食い下がる蓮の眼を見据え、ナイトモンは再度警告を発した。
「武器を・・・! 足元に・・、置いてくれ!!」
蓮は姉に振り向いたが、彼女は首を縦に振った。腰に吊るされていた黒塗りの刀を鞘に入ったまま、地面にゆっくりと置く。
そして、手近のナイトモンに話しかけた。
「話を聞いていただけませんか」
ナイトモンは、桜華の後ろで同じように武器を捨てたコテモン・蓮の二人を確認して、ゆっくりと頷いた。
「お前は我々の同胞を殺めた。 その事実は変わらない。 話を聞いたあとすぐにでも叩ききってやる」
剣を握る手を緩めないナイトモンに正面から向き直り、桜華はその場にひざまずいた。
「命だけは助けていただけませんか・・?」
ナイトモンたちに反応はない。
しかし、彼らの背後から二ノ宮とファンビーモンが姿を現した。
「わけを話してください。 健助も。 ・・・どういうこと? どうして・・?」
「イグドラシルは姉さんを無理やりデジタルワールドに連れ込んで洗脳したんだ」
蓮の説明を聞いてもナイトモンたちが殺気を緩めることはなかった。
「我々にもわかるように説明してくれるか・・!?」
「人間が騎士デジモンに変化する際、おれたちはイグドラシルが造りだした“プロトコル”を使用する」
突然イオの声がその場に響き、ナイトモンたちは驚いて道をあけた。
イオ、カリスト、ガニメデ、エウロパの4人はためらうことなく桜華と向き合った。
「こうして話すのは久しぶりだな」
「・・ええ、そうですね」
桜華の戸惑ったような返事を聞いて、カリストは含み笑いを見せる。直後、睨みつける蓮と目が合い、慌てて言った。
「いや、あんまり物腰が違っててすこしその・・うん。 でも洗脳前と後じゃこうも違うもんなのか」
「プロトコルにコントロールプログラムをすり込ませて着用させ意のままに操る、イグドラシルのやりそうなことだ」
腕を組んだイオはため息をつくと糸目をすこし開き、金色の眼で桜華の顔を見て言った。
「これからどうする? プロトコルなしでもお前は戦力になることはなる。剣術は卓越したものだからな。 だがこちら側は黙ってお前を仲間に入れてやる気はないと思うが?」
桜華は黙って頷き、やがて言葉を噛み締めるようにして言った。
「ナイトモンを手にかけてしまったことは事実です。私はそれを認めます。・・でも、大切な弟と再会できたんです・・! 刀は取り上げていただいて構いません。私にできることでしたらなんでもします! だから・・・、弟といっしょにいさせてください・・!」
言葉を途切らせると桜華は深く頭を下げた。
その様子を見守っていた二ノ宮は、柳田につれられてきた和西に振り向いた。
「・・どうする・・?」
戸惑った表情を浮かべる二ノ宮に、和西は頷いてみせた。そして林未に呼びかける。
「僕は健助を信じる。 健助のお姉さん、安心してください。僕たちはあなたの味方です!」
和西の言葉を聞いた瞬間、ナイトモンたちの中から次々と声が上がった。
それが怒号へと変わる前に和西は大声で叫ぶ。
「僕らテイマーは全員同じ意思です!! ブレイブナイツの皆さんの意見は尊重します!!」
和西は大きく息を吸い、呼吸を整えた。
柳田、二ノ宮、黒畑、コクワモン、ファンビーモン、ロップモン、ゴマモンの顔を順に見合わせた。
この時のために相談した結果を和西はテイマーの代表としてその場の全員に告げた。
「ブレイブナイツが健助のお姉さんを拒絶するなら・・、僕たちは僕たちだけで行動します!ブレイブナイツとは完全に別に行動します!!」
「なら・・、そうしてもらう他ない」
和西の声よりもさらに大きく、低い声が轟いた。 ナイトモンたちを束ねる、団長だ。
「我々はその女を許すわけにはいかない。 和西! お前たちがその女を仲間だというのなら・・、さっさと消えろ・・!」
周囲に冷たい沈黙が流れた。
「オレも・・、そーいうやろと思う。 もしブレイブナイツのナイトモンがオレの仲間を殺したら・・、ブレイブナイツとはいっしょに行動でけへん」
沈黙を破り、柳田はゆっくりとした口調でつぶやいた。
「行くで、コクワモン」
そう言い残し、柳田とコクワモンは荒野と樹海とを隔てる岩場の向こうへと姿を消した。
続いて黒畑とロップモンも柳田の後に続く。
驚いた表情を浮かべたままのカリストの前を通る際、立ち止まると彼女は小さく頭を下げた。
「今までありがとう・・。私、行きます」
「・・・。そう・・、か」
二ノ宮は不安そうな表情を浮かべる桜華の肩を抱いて、健助に目で合図を送った。 ファンビーモンが遅れて後を追う。
桜華はたまらなく、立ち止まった。
「・・・・っ、ごめんなさい。 私、私がもっとしっかりしていれば・・」
「大丈夫、行きましょう・・」
涙で頬をぬらし、声をつまらせる桜華を二ノ宮は優しく元気付けた。
最後に残った和西は最初に、イオと向き合った。
「死なさないで、君の仲間」
「・・そちらこそな」
次に振り向いた和西は団長に言った。
「ありがとうございました。 ・・あなたほどのリーダーを、僕は知りません」
「それは皮肉か・・?」
団長は鎧の一片をも動かさなかった。
鎧兜の奥に隠れ見えないナイトモンの眼を見つめ続け、和西は静かに首を横に振った。
「行こうか、ゴマモン」
和西とゴマモンが立ち去ろうとした時だった。
「日の沈む方向へ進め! ひたすら進め。 お前たちはそこで決着をつけろ」
ムードゥリーの声だ。
和西は頷いた。
しかし彼とゴマモンが振り向くことはなかった。
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