照りつける日の中を家々やビルの上つたい三つの影が飛び交う。
占拠された中学に隣接する体育館の屋根に次々に着地したドーベルモン・プレイリモン・シュリモンからそれぞれのテイマーが飛び降りる。
「よし、少し待て」
林未は理科室から“借りてきた”双眼鏡を覗き、まず煙の上がる職員室を見た。
と、同時に窓から3つの人影、一人は金髪、蒼髪、さらに全身をコートで包んだ小柄な人影が抜け出した。
奇跡的に植え込みのすきまから見つける事ができ、それらはすぐに視界から消える。
「職員室から三つ。この前のやつらか・・・」
さらに視界を校舎の上部へと移動させる。
今度は複数の人影が廊下を走って行く。
「どんな様子?」
「ああ、見つけたよ。髪から推測するに積山と辻鷹、それに柳田だな。金髪のもう一人は・・・、擬態したウィルドエンジェモンか・・」
話しかけた黒畑の問いに順に答えながら林未は正面玄関へと視界を移した。
黒い人影がいくつも見える。
「あれは・・・、二ノ宮だな」
林未はそこまで確認すると双眼鏡を制服のポケットに仕舞った。
「涼美ちゃんから連絡があったと思ったらこれか・・・。どうなってるの?」
黒畑はプレイリモンに下に下りるよう言い含める。
「さぁな。気がかりなのは和西が見当たらないことだ。どこでなにをしているのか・・」
林未もシュリモンに向き直り、すぐに振り返って言った。
「様子からして相手はおれ達に気づいてはいないらしい。積山たちをマークして援護しようじゃないか」
「なんで逃げちゃうかな」
「普通逃げるだろ」
和西とゴマモンは鞄ごしにすでに話がついたはずの会話をしつこく繰り返しながら生徒の波を掻き分けて進んでいた。
途中、保護された3人の教師と警察官を見つけ、その会話を聞く。
「だから、少年と少女の3人組が突然職員室に!」
和西はすでに人質交換の話を聞いていた。
「たぶんみんな中にいるだろうな・・」
校門の前まで走り抜けるとすぐに警察官に取り押さえられた。
が、組織の隊員に見つけられ、開放される。
和西はまず最初に二ノ宮を探した。
金属探知機や爆発物検知訓練を積んだファンビーモンを手配し、彼女は一息ついているところだった。
「あれ?中にいるんじゃなかったの?」
「それが人質交換の話を聞かされたのが外だったからさ・・」
二ノ宮は非常に複雑な表情で和西を見て、すぐに気をとりなおした。
「そう、まぁ・・、無事でよかった」
そう言うと二ノ宮は和西の肩を押して背後のボックスカーに迎え入れた。
中には嶋川、アグモン、谷川、ホークモン、さらにガブモン、ギル、コクワモンが並んで腰掛けていた。
「よう」
嶋川が若干緊張した面持ちで軽く手をあげて言った。
「なんでこんなことになってるんだ?って顔だな」
和西は無言で頷き、手前の座席には目もくれず訊いた。
「しってるのか?」
「“たぶん”」
谷川が窓の外を見つめながら答える。
「この戦いはそれを裏付けるだけのものかもしれない・・・」
触れただけで壊れてしまいそうな雰囲気を感じ、ゴマモンは思わず息を呑んだ。
「なにかあったのか・・・?」
谷川はあいかわらず視線を動かすことなく答える。
「お父さんの“例のディスク”が見つかったの。ひょっとしたら・・・」
「“世界が生まれ変わる境にあるのかもしれない”」
辻鷹は銃をおろし、それでも周囲を気にしながらその場に腰を下ろした。
「大丈夫か?」
柳田がとなりに座り、表情を覗う。
「うん。大丈夫なんだけどちょっと自信なくてね。・・前、結構前にウィルドエンジェモンの戦いの時の話なんだけど」
遠くを見つめ、彼は目を細めた。
「実際に撃つ直前まで迷ってたんだ。僕は。本当に撃つか、撃てるかどうか」
それを聞いた途端、積山は険しい表情で目をそらした。
同時に柳田が視線を合わせる。
「それで・・・、それでどうやった・・・?」
「僕は撃ったよ。撃った。けど今回は撃てるかどうか自信ないんだ」
積山がゆっくりと立ち上がる。
ウィルドエンジェモンは心配そうな顔で彼を見上げた。
辻鷹は続ける。
「いつあの人たちが追いかけてきても撃てるように銃は抜いたし向けもする。でも撃てるかどうか・・・、撃てない。撃てないよ。僕は平和に暮らすほうがあってるはずなのに・・・!」
突然1つの人影が階段から姿を現した。
蒼い髪、ガニメデがついに追いついた。
「なんで?なんで母さんはテイマーになったの?なんで僕はテイマーになったの? ――テイマーって・・・なに?」
戦う気が完全に失せた辻鷹を背にかばい、柳田は雷槍を構える。
それに背を向け、積山がガニメデの前に立った。
手に槍は持っていない。
「お前・・・!」
柳田が口を開いたが、積山はそれに被さるように言った。
「仁を連れてひとまずは二ノ宮さんのところへ向かってください」
彼はそう指示すると制服の上着を脱いで脇に投げた。
ベルトに巻いてあったデジヴァイスを右腕に巻きつける。
その瞬間、完全体に進化したギルが壁の片側を完全に砕き、積山とウィルドエンジェモンを乗せ、反対側の中庭に轟音を立てて着地した。
ブラックメガログラウモンとウィルドエンジェモンが積山の周囲でガニメデを睨みつける。
ギルの肩の上に立った積山は鋭い眼差しでガニメデを見上げ、言った。
「私はテイマーだ」
積山のその言葉を聞き、柳田は辻鷹を立たせて廊下を走り抜ける。
2人が角から消えたのを確認し、ガニメデはかなり落ち着いた声で積山たちに話しかけた。
「オレの名、ガニメデ。我が主君イグドラシルに忠誠を誓い、イオに忠誠を誓った。だからオレ、戦う。お前ら、倒す。イオに命じられた」
ガニメデはゆうに20メートル近い階層から飛び降り、中庭に着地する。
そのまま数歩あるいて積山の眼前近くまできたところを見るとまったくの無傷らしい。
内心舌を巻いた積山は言った。
「私を倒すと言う以上彼女もギルも黙ってはいない」
ウィルドエンジェモンはゆっくりと剣を抜き、ギルの体が緊張に軋む。
まったく動じる様子もなく、ガニメデはゆっくりとく口を開いた。
「イオ言った。騎士を発動してもいいと。究極体に進化される前に発動しておくにこしたことはない」
ガニメデの額に巻かれた金属の物体から光が放たれ、ガニメデを青い光が包む。
と、その瞬間、
暴風が巻き起こり、3、4メートルはあるかという体躯、青く、紅い鎧に身を包んだ騎士が出現した。
「見よ、そして食らえ・・・、騎士の力を・・・!!」
騎士・クレニアムモンは右腕を天に掲げた。
「我が君イグドラシルの命により貴様達テイマーを神の力を持って打ち壊す!!」
猛烈なスピードで両刃両端の魔槍が構築され、クレニアムモンはそれを握り締める。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!![クラウ・ソラス]!!!」
凄まじい力で振り上げられた槍を見上げ、積山は2体のパートナーに話しかけた。
「ついてきてくれるか?」
「もちろんだ」
ギルもウィルドエンジェモンもはっきりと頷いた。
「おおおおおおおおお!!!!」
気合もろとも叩き下ろされたクラウ・ソラスが強烈な衝撃波を生み出し、中庭の建造物すべてと中庭に面したガラスがすべて、粉々に砕け散った。
立ち込める煙が薄れ、クラウ・ソラスを左手の魔盾“ゴーゴン”のみで受け止めたカオスデュークモンが姿を見せた。
その瞬間、両者はかなりの身軽さで距離をとって対峙する。
「この程度では倒れない。それでいい。それでこそ倒しがいがある」
クレニアムモンは再度“クラウ・ソラス”を振り上げ、カオスデュークモンに斬撃の連打を撃ち込む。
すべて回避したカオスデュークモンは背中の漆黒の翼を広げ、一瞬の間にクレニアムモンの背後に回った。
「[ディモンズ・ディザスター]」
強烈な一閃が空を裂き、一瞬で構成したクレニアムモンの盾を直撃した。
衝撃にクレニアムモンの巨体が大きくぶれる。
「ぐっ・・・!」
優雅ともとれる動きで槍を構えたカオスデュークモンを見上げ、クレニアムモンは・・・、笑みを漏らしていた。
「それでこそ。それでこそだ・・!」
本気で戦いの感覚に狂喜するクレニアムモンは低く体勢をとって“クラウ・ソラス”を天に掲げ、かまえた。
「[エンド・ワルツ]・・・!!」
「私は負けはしない」
カオスデュークモンは左腕を頭上に掲げた。
「[ジュディッカ・プリズン]」
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